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サムターンで撃ち抜かないで

取材時に怖かった体験はあるかと尋ねられたことがある。
そうした時に特定の相手で浮かぶものはなくて、会話が弾まなかったり、急なトラブルで焦ったりすることはあるが、怖いという話ではない。

ただいつも共通して怖い瞬間がある、それは全てが終わってお部屋から出た後、
サムターンのつまみを捻って鍵が閉まる音を聞く時である。
「スパァン!」と勢いよく閉められた時には後ろから銃で撃ち抜かれたような気持ちになるのだ。

撮影が少し長引いてしまったり、京都でいうお茶漬けを勧められるようなサインがあったり、こちらにも落ち度があるなという時は「撃たれても仕方ないか。」という気持ちでいられるが。

ある程度盛り上がって、ニコニコ楽しく進んだと思っていた撮影で最後に撃ち抜かれると多少心がざわざわする。

そしてそういう時は耳からその音が離れないので、建物から少し離れたところで音楽をかけ、すぐに忘れるようにしている。

もちろん、それが悪意や不満によるものだとは思ってない。鍵が固くて力を入れないといけなかったり、「終わったぁ!」という気持ちの高まりとともに勢いよく回したりなんてこともあるから大して気にすることはないだろうと自分に言い聞かせて終わらせることがほとんどだ。

では、逆にこうした場合の正解とはなんなのだろうと考える。
自分が体験した中で落ち着くのはゆっくり閉じる音か、住まいを出てから少し時間を空けて、こちらが離れた時間を取った上で閉じる音が聞こえる時だろうか。


そんなこんなで自分自身も、家では静かな鍵閉めを心がけている。
「こんなことをいちいち気にする自分も面倒なやつだなぁ。」と思いながら
まるで忍者の抜き足差し足のように静かに。家を出た相手が閉じられたことに気づかないレベルをめざして、そっとサムターンを回すのだ。

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