視力0.05の世界。
𓂃𓈒𓏸
「俺、目悪いんだよね。裸眼だと0.1」
『へえ〜、あれ、じゃあ普段はコンタクト?』
「仕事の時とかは眼鏡だけど大体は裸眼生活」
『え!?見えてるのそれ、危なくない?』
「んー、大丈夫。あんまり困ってはない」
『私も0.05くらいで目悪くてコンタクトしてるけど、裸眼で外出るのは怖くて無理だなあ』
「まあでもコンタクトつけると世界が広がる感じするよね」
𓂃𓈒𓏸
別になんてことない会話。
特に弾むような内容でもない。
でも私は少し気になった。
ぼやけた世界で生活するってどんなだろう。
彼にはどう見えているんだろう。
私はまた次会った時のための話題作りとして裸眼で夜の道を歩いてみることにした。
・・ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ・・
冬が近づいている、そんな季節。
コンタクトを外し、夜道を歩き出してみた。
視界がぼやけてやっぱり怖い。
目が慣れるまで足元ばかりに注意が向いていたが、
ふと立ち止まって、顔を上げると
そこら中に綺麗な花火が上がっていた。
街灯の光、信号機の赤黄青、車のライトたちが
こんなにも素敵に見えるなんて、と感動した。
本当に綺麗だった。
歩き慣れた道、景色が違って見えた。
あんな風に見えることを知らなかったわけではないし、見たのも初めてではない。
でも、あの日のあの景色は何か特別なものに感じた。
忘れていたものを久しぶりに見たからだろうか。
それとも、この景色を見るきっかけを
彼がくれたからだろうか。
・・ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ・・
「裸眼で散歩してみたけどやっぱ怖かったし危ないから普段もコンタクトか眼鏡してた方がいいんじゃない?」
と、そんなつまらないことを彼に言おうとしていた。
あの景色を見る前までは
でも
「冬に素敵な花火を見せてくれてありがとう。」
そう伝えようと思った。
・・ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ・・
「まあでもコンタクトつけると世界が広がる感じするよね」と君は言ったけれど
私は、コンタクトを外したら世界が広がった感じがしたよ。
ありがとう。
・・ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ・・
「可愛いよ。綺麗だよ。」
君の眼に映る私は、きっとぼやけていて
はっきりと見えていなかった。
「好きだよ。またね」
私は、何も言葉を返さず手を振った。
ごめんね。
君がコンタクトをつける前に
さよならをする。
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