悪漢⑤

 カプセルホテルを午前10時にチェックアウトしたAさんはコインロッカーでビニールバックとリュックとで中身を交換して支度を整えます。
 端布の詰まった5つのゴミ袋をリュックに詰めたもんですからリュックはパンパンでありましてね。その上に革靴1足を入れて。
 容量目一杯に詰めたとは言え、布の、しかも端布ですから重さは無い。重さは無いんだけれどもうそれ以上何も入らない状態ですんで、あんまり格好の良いもんではないんですが地図本は小脇に抱えて歩くしかなくなりましてね。

 赤羽駅から電車に乗って目的地を目指す訳ですが、あんまり“川っぺりの駅”ってありませんでしょ?
 だから近場の駅で降りてバスを乗り継いだり、場所によっては駅から延々歩き、なんて場合もある。
  
 最初の目的地は神奈川県の山あいを流れる川で、川っぺりはゴツゴツとした石ばかりでして足場があまり良くない場所でした。
 そんな所でも『人気(ひとけ)の無い場所』ってのを探すには結構苦労しましてね。「ここだ!」と場所を見定めた頃にはお昼を過ぎてたり。
 コンプライアンス的には『不法投棄』って奴になるんでしょうが最初の一袋目の端布を川へ流したんです。結構な水量と急流でしたから、革靴の右足も一緒に。
 それでも一応は環境に配慮しましてゴミ袋から中身だけ流して袋は回収したんです。ええ。

 電車だバスだ、の乗り物移動に加えてそこから場所選びに時間をかけるもんですから、全て廃棄し終えて赤羽に帰り着いたのは最終電車になっていた。
 駅とカプセルホテルの中間にある松屋さんで遅い夕飯を摂りながらハイボールをキュッと……今はコロナの影響もあって無理でしょうけど、当時はメニューにハイボールがあったんですな。
 で、腹を満たして、そうなると後は疲れを取らなきゃいけないってんで、カプセルホテルに戻るなり大浴場へ直行しまして、そいで寝床に辿り着いた途端に爆睡とあいなります。
 
 次の日、Aさんの姿は秋葉原の電気街にありました。
 情報収集の為にいちいち新聞を買う、それもいいんだけれど今の時代はネットだろう、と。
 そうなるとスマートフォンが欲しくなる所ではありますが、Aさん、家無人(いえなきびと)生活が長かったせいもあって身分証明書って物を持ってない!
 ところが世の中“捨てる神あれば拾う神あり”で、プリペイドカード式の、SIMカードって奴を買うだけで通話は出来ない、ネットだけ!というのがあるらしい。
 家電量販店でそのSIMカードを手に入れまして、中古スマホ店の店員さんに「これが使える機械ってどれ?」なんて聞いて廻ってスマートフォンも手に入れましてね。

 それでも、結局駅の売店で夕刊を買っちまう訳なんですが……

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