廃病院の怪異①

 え~、廃病院と申しますと心霊スポットですとか怪談のメッカであります。
 でも今回俎上に載せます廃病院は潰れた訳でも、過去に陰惨な死亡事例があった訳でもありません。
 そもそもの立地が建て増し等が到底不可能で、尚且つ手狭になった。そこで駅一個分隣に良い土地を見つけたので、新築した上で皆でこぞってそっちへ移ろうやないか、という事で空き屋になった建物なんであります。
 ま、空き屋になったところから逆算して怪談噺に仕立て上げられるような出来事があったのか無かったのか、それは定かではありませんけれど。

 知り合いの会社に呼ばれてAさんが解体作業補助としてその現場に入りましたのが2月の事。
 真冬時期ですから「ストーブ無しには居られん」ほど寒いのは仕方ないとして、ところが春を迎えて4月になり5月になっても建物内に設置した休憩所にはストーブ無しにはおられんのです。
 息が白い煙になるんですから。
 解体重機のオペレーターさんなどは昼食後の昼休み、解体して床のみになったほぼほぼ外に等しい所へ「あっちの方が温かいからよ」と言って昼寝しに行くぐらい。

 でまぁ、Aさんだけなんですが、解体前に男子トイレだった場所で床に横向きで寝そべっているお爺さんを何度も見たり…なんて事もありましたけど、この廃病院で最もポピュラーな怪現象は『声』なんです。

 重機のオペレーターさんが昼寝をしてますと「ただいま~」という子供の声が聞こえた。小学校中学年ぐらいの男の子の声だったそうです。年の頃なら8~10歳くらいの。
 でも、現場の隣近所はオフィスビルが建ち並んで子供が住んでいるような形跡は無い。

 現場の位置関係を整理しますと、東京エリアの交通情報でも渋滞するので有名な幹線道路があってそれに面して廃病院があります。これを“表”としますと、現場のすぐ裏が交互通行でありながら車同士が擦れ違う事の出来ないほど狭い道になっておりまして、その横には一級河川に完全な護岸工事を施した広い川があります。川向こうは大規模な集合住宅の群れ。
 川幅は50メートルほどありますから、いくらなんでもその集合住宅で男の子が「ただいま~」言うたとて、現場に聞こえる筈が無いんですな。
 隣を見てみても、住宅と呼べそうなのはオフィスビル五つ挟んだ向こうにしかありません。幹線道路にはひっきりなしに大型車が行き交ってますし、逆隣は交差点です。その向こうはオフィスビルと店舗ビルです。
 聞こえる筈が無いんです。

 Aさん自身も『声』を聞いてましてね。
 皆が休憩へと降りてから、Aさんが一人で休憩後の作業に向けた段取り作業をしてますと、
 「いい加減に休憩しようや!」
と、現場の作業を取り仕切る『世話役さん』に声をかけられた、といいます。
 幹線道路の方からね。
 Aさんが「はーい」と返事をして一階まで降りてみると、世話役さんは川の方に立っていて「ボク、ずっとここに居たよ」……つまり声をかけに上まで上がったりしてない、とおっしゃる。

 実はこの『声』。解体工事が終了するまで頻繁に起こっていて、たまに複数の人がいっぺんに聞いていたりもします。
 その都度、子供の声だったり、工事に携わっている誰かの声だったりはするんですけれど。

 結論から申し上げると、工事の最終盤、建物を壊し終えて地面を掘り返した時に、この声の“元凶”といいますか、“根源”に行き当たる事になります。

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