宿敵だらけの健康診断①~心電図~

 初めて社会に出た時の会社……15年勤めたんですが年に一度集団健康診断が行われておりまして、最初の十年間は会社に健康診断をやってくれるチームが来てくれていたんですが後の5年間は我々が健康保険組合の運営する専用施設へ受けに行くという形に変わりましてね。
 その施設へ受けに行くようになってからが非道かった……というお話。

 まずは心電図のお話しなんですが、会社で健康診断やってた時は良かったんです。担当が三十代前半と思しき美人の女性検査技師さんでしたし、そこへもってきて私ときたら子供の頃から心電図の正常な測定が出来ずらい体質なもんですから、そのお姉さんと長く一緒に居られて色々と……
 ところが!
 専用施設で行うようになった初回の時。
 まぁ考えてみれば会社の集団検診なんて土曜日とか日曜祝日……会社の業務となるべく被らない日を選んで実施される場合が多いでしょうから、全員がそこ専任のスタッフさんという訳では無いようでありましてね。
 平日はどこかの病院に勤務されていて週末はこちら、的な方とか病院は退職されて家庭に入られているけれど健診がある時だけのパートさんですとかね。
 ……で、心電図の担当がまさにそのパートさんでありまして。
 部屋に入りますとパート技師さん、こちらに背を向けて何やらゴソゴソやっておる、と。
 どうやら測定に使うコードが絡み合って取れないらしく、“切り分ける前ののし餅”みたいな背中を丸め、その背中の広さから察するに野太い十本の指を駆使して“揖保乃糸”ほど細いコードであや取りをやっとる。
 「は~い、胸からお腹までと手首足首を出して、準備が出来たら教えて下さいね~」
 背中と両の肩肘の動かし方からするとイライラはMAXの筈ですが声だけはゴキゲンさんといった感じで言うとるんです。
 まぁコチラとしても子供の頃から長期入院を二度も経験して“心電図慣れ”してますから、手早くTシャツを胸上までまくり上げ、ズボンの裾を三重に巻き上げて、
 「出来ました~」
 するとギリギリそのタイミングでコードが解けたらしく、
 「は~い、準備が出来ましたら」
言いながらクルリとこちらを振り返った。
 そこで彼女の目に飛び込んで来たのは!
 ……私ね、胸毛、あるんですよ。それも中2の時の入院時にふざけた看護師さんに一回剃られた事がありまして、そのせいか他の部位に較べて胸がひときわ濃いんです。
 それを不意に目にした彼女の咄嗟の一言。

 「汚ッ!!」

 お前さんの、その“忌憚のない御意見”は正確な測定に必要なのか!?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?