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第73回ケア塾茶山は「飢えの贈り物」を読みます。

柴田元幸は、レベッカ・ブラウンの本との出会いはイギリスの本屋さんでと語っています。「翻訳家・柴田元幸さんインタビュー」(2016.3.12)
『THE GIFTS OF THE BODY』(Harper Perennial,1995)に触れた瞬間、きっと真っ先にその書影に心を動かされたことでしょう。ちなみに、第70回からのチラシの背景は、原書表紙デザインへのオマージュです。


今回の記事は、この奇跡の一枚(Peter Holding William)についてご紹介していきたいと思います。

Joyce Tenneson(1945~ )はアメリカ出身の女性写真家です。その時代のアート写真の世界は、男性ばかりで構成されていました。彼女は大学でモデルとして写真サークルに関わっていたのですが、男たちの作品に失望し、自ら深みのある表現がしたいと思うようになり、それが後に50年をも続けた写真家人生の始まりだったそうです。

Joyceの初めての写真集「In/Sights」(1978)は、自身を写したセルフ・ポートレイト集です。当時、業界初の女性による自写像として名を馳せ、その年の五大写真集の一角に選ばれたほどでした。

In/Sights: Self-Portraits by Women, 1978
(https://www.jamescockroft.com)

そして時は流れ、80年代後半に入ると、Joyceはモデルを起用します。彼女の作品の代名詞とも言える光の表現が、人物の奥深くにあるものに差し込みながら読者をその独特な世界へと連れ込みます。
そんな撮影現場で数多くの逸話を残しています。Joyceの四作目の写真集『TRANSFORMATIONS』のなかに収録された「Peter Holding William」という作品と、写真集の表紙に使われた作品の誕生もまさにその代表でした。決まったルールやポジションなどといったものに束縛されず、目の前にいるこの人と、全神経を研ぎ澄まして触れ合うことでいつもと違う発見や刺激や何かに恵まれるのだというところは、レベッカ・ブラウンが伝えようとしていることであり、私たちが目指すべきケアのあり様でもあるような気がします。


それでは、『TRANSFORMATIONS』のインタビュー記事の一部を英和対訳でここでご紹介します。翻訳は尾川知さんです。

DAVID
Besides giving you a way to find yourself in them, what do your models offer you of themselves? Does a true collaboration occur at times?

JOYCE
Absolutely. They always give me something individual; if they couldn't, I would not be interested in photographing them. And in some cases, it goes further than that. The way Suzanne in Contortion came into being is a good example. (FIG. 10) The day I took this picture, I told Suzanne I wanted to make a special photo just for her -as a gift. I asked her how she wanted to be photographed; I wanted to know what would give her pleasure. She said, "Do you know I can do contortions?" I said, "Show me!"

She then began to move through a number of body contortions. I stepped back, watched her without comment, and when I saw her twist her arms to frame her face, I said, "Stop, that's it." All I had to do was decide how to isolate that strange configuration. Five minutes later, when I had set up the pedestal and lined up the composition, we took the picture.

INTERVIEW -Excerpts from conversation between JOYCE TENNESON AND DAVID TANNOUS-
FIG.10. Suzanne in Contortion, 1990
(https://www.tenneson.com)

デイヴィッド
自分を発見する方法をあなたに与えてくれるということとは別に、モデルさんは、貴方に何を与えてくれますか?真の意味の協働が成り立つことが、時にはありますか?

ジョイス
モデルさんは、それぞれ、貴重な経験をさせてくれますよ。それがなければその人を撮影することに興味がもてないでしょう。場合によってはそれ以上のものが得られることもあります。”Suzanne in Contortion”が生まれたいきさつは良い例です(図10)。この写真を撮った日、「ただあなたのためにー贈り物としてー特別な写真を撮りたい」とスザンヌに言いました。どういう風に撮って欲しいたいかたずねました。どうすれば喜んでもらえるか知りたかったのです。スザンヌが「私、コントーションができるのよ」と言うので私は「見せて!」と応えました。

それからスザンヌはコントーションをいくつも見せてくれました。私は後ろに引いて、何も口を出さずにスザンヌを見ていました。スザンヌが顔を縁取るように腕をねじったとき、「止まって、そこだ」と言いました。すべきなのは、その奇妙な形を切り取ることだけになりました。5分後、撮影台を設営して構図を決め、私たちは撮影しました。

DAVID
Does this kind of connection occur more frequently with models you know better?

JOYCE
Yes, although there's no predicting. Another picture that had a similar genesis is the one of Peter holding William. The night before the shoot I had a dream in which I saw Peter carrying William in his arms, and this image haunted me. (Fig. 11) When I began working with them the next day, I kept thinking about this, but I held back from asking them to try it. I was shy ― and this was the "old" Joyce thinking ― about asking for something that might be too uncomfortable.

Then, right at the end of the day -five minutes before the studio usually would close - William said, "Joyce, have you ever thought about doing a picture where Peter would just pick me up?" I turned to Peter and he immediately took William in his arms. I said, "Great!" and took the picture, one shot, bang. It was a special moment for all of us. I knew immediately that the picture would have a real power, but I've been surprised ― and extremely moved ― by how strongly people have reacted to it since. Men especially seem to gravitate toward this picture.

So, you see, there is no formula. I never know what my models ― my friends ― will bring me in a session, or what I will bring to ― and ask of ― them.
Every day is totally different ― that's what makes it so exciting for me. I never know what is going to happen! When I have a particularly great day, when I know I have witnessed and captured things I haven't seen before ― special moments ― I feel a real high. I feel privileged to record them, and consider them a kind of gift.

INTERVIEW -Excerpts from conversation between JOYCE TENNESON AND DAVID TANNOUS-
FIG.11. Peter Holding William, 1989
(https://www.tenneson.com)

デイヴィッド
モデルがよく知っている人の方が、こういうつながりができることが多くなりますか。

ジョイス
はい。ただあらかじめ予測できるわけではありません。同じような由来のある作品にピーターがウイリアムを抱えているものがあります。撮影前の夜にピーターがウィリアムを抱えて運ぶ夢を見て、そのイメージに捉えられたんです(図11)。次の日にピーター、ウイリアムと一緒に作業を始めるとき、ずっとこのことを考えていましたが、やってみようと言い出せずにいました。私は照れ屋で、こんなことを頼むのは不快に感じられるかもしれないと思って頼めなかったんです―これは「昔の」ジョイスの考え方ですが。

そしてその日の終わりにーいつもスタジオを閉める時間の5分前にーウィリアムが言ったんです。「ジョイス、ピーターが俺を持ち上げているところを写真にしようって考えたことあるかい」私がピーターの方を向くと、さっとウィリアムを抱き上げて腕の中に抱えたんです。私は「すごい!」と言って写真を撮りました。ワンショットでパチリと。私たちみんなにとって特別な瞬間でした。この写真に本物の力があることはすぐにわかりましたが、驚いたのは―そしてとても感動させられたのは―この作品にとても強く反応するひとたちがいることです。とくに男性が惹きつけられるようです。

ですから、公式があるわけではありません。モデル―友人です―がセッションに何を持って来るかはわかりませんし、私が何を持って来るか、何を頼むのかもわかりません。毎日まったく違います。それが私にはとてもワクワクするんです。これから何が起こるかはわからないんです!とくにすごい日、これまで見たことのないもの―特別な瞬間―を目にし、捉えたと知ったときには、最高に近い気分です。それを記録する特権にあずかったと感じます。ある種の贈り物をもらったんだと思うのです。

DAVID
When you talk about your models, you usually refer to them as your friends. Why?

JOYCE
They are. Most of them have become close friends. We have a shared respect for each other, and also there's an intimacy that's developed over time. And it isn't just in the studio: we see each other socially; we take workshops together; we're always doing things together."

INTERVIEW -Excerpts from conversation between JOYCE TENNESON AND DAVID TANNOUS-

デイヴィッド
モデルについて話されるとき、まるで友人のことを話題にしているみたいですね。どうしてですか。

ジョイス
友人だからです。モデルのほとんどは親友になっています。私たちはお互いに敬意を払っていますし、時間をかけて親しい関係を築いています。スタジオの中だけで親しいわけではありません。プライベートでも会いますし、一緒にワークショップを開くこともあります、いつも色々なことを一緒にするんです。


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