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#エブエブ を見て「これ、自分の家族の物語じゃん」と思った話

オープニングで、主人公のエヴリンが、一面のレシートの中に、疲れ切った顔でたたずんでいる姿を見てハッとした。
幼少期に毎日見ていた、母の顔にそっくりだった。

才能豊かな母の、あり得たかもしれないマルチバース

両親は、中国上海の出身。母は25の時に、父は32の時に海を渡って日本に来た。今では、2人とも日本での生活のほうが長い。
アメリカに暮らす中国系移民のエブリンは、コインランドリーの経営者。なかなか経営はうまくいかず、確定申告が終わったかと思いきや税務署から呼び出されるシーンから始まる

1人1人の服装が、絶妙なリアリティなんだよな。

幼少期の母は、思えばいつも焦っていて、余裕がなさそうだった。一つのことにじっくり取り組む余裕はない。掛け持ちしている仕事に、家のこと、娘の教育。

当時の私は嫌だった小学校から抜け出したくて、月・水・金は塾通いだった。
仕事が終わった後、わたしの塾の教科書の算数の問題を自分で解く。数学が苦手な私に、自分が解いた問題を教えるために、だ。毎日母が寝るのは2~3時ごろ過ぎだ。

エヴリンは、突飛なこと(鼻でハエを吸う・お漏らしをする・愛を誓うなど)をするとマルチバースの世界で持っている力をダウンロードすることができる。

マルチバースの世界では、エブリンは多才だ。カンフーの達人で女優、盲目の歌手。それらの力をダウンロードして、宇宙と戦うことができる。でも、この世界では優しい夫と娘との生活を守ってる。

思えば、母も才能豊かな人だ。
ただ、私の父と日本に来るという選択以外では、突飛な選択をしなかった。税務処理が趣味で、株の運用が好き。ほぼ独学で日本語を学んできた。理科系・数学が得意で、国語は苦手。

すべて私とは別のベクトルの得意を持つ母を、尊敬していた。すごく賢くて、頭のいい女性だ。多才で、踏ん張りがきく。でも、ひとつ大きく尊敬できなかったのは、「日本では私は無理だ」ということが口癖だったこと。

私もあずかり知らぬ、悔しい思いがあったらしい。母が日本に渡ってきた当時は、まだきっと外国人も少なく、日本語が片言の母を馬鹿にするような人はたくさんいた。「このお母さん、日本語意外と上手だね」というコメントは、悪気はないにせよ、すごく複雑な気持ちになる。

赤の他人から、じわりじわりと尊厳を削られるうちに、日本に来たことを最後に、母は突飛な挑戦をやめてしまったように私には映った。本気になれば、なんだってできる、賢い人だ。でも、それをしなかった。

父と私との、幸せを守るために、自分の未来を犠牲にしたように、私には感じられた。

ファイティングポーズで生きるしかない、奪われないためには。

両親にとって、日本に住み続けることは、常に何かと戦い続けることを意味していたと思う。自分の尊厳や、誇りに急に殴り込んでくる他人に、負けないように。

馬鹿にしてくる相手から、奪われないように、強くなること。
母からのメッセージは「世の中とはファイティングポーズをとる必要がある」ということ。知らないうちに、私の基本姿勢もファイティングポーズになっていたかもしれない。

キーホイクアンの見事なカムバックも、必見。助演男優賞おめでとう!

相手をあっと言わせるために、強くなること。だれよりも優れていること。それは能力的にも、金銭面でも、明確に優位にたつこと。

誰にも頼まれていないのに、気付けば自分で勝手に両親の人生を背負っていたのだと思う。

自分で両親の人生を背負ううちに、勝手に自分の人生は、一定両親のものだと思うようになっていた気がする。自由意志で選択した、というよりも、両親に報いることができる、あるいは世間に顔向けできて、ちゃんと「世の中に勝ったよ」といえる成果を残せるか、が。選択のすべてになっていた。

そう感じれば感じるほど、大好きな両親を重荷に感じることが増えていたように思う。

戦う以外の、世界との対峙

エブエブの象徴的なモチーフに、目がある。
あの目は世界との対峙の仕方だ。ファイティングポーズではなく、新しい目線で世界を見るための目。
戦うためではなく、相手の願いをかなえるために力を使うための、目。

この岩のシーンが、泣けて仕方がないんだよ、無性に。


そのきっかけは、夫のウェイモンドがふざけてつける目のおもちゃがヒントだ。

世界を見る目は、ちょっとしたことで変えられる。
エヴリンと、税務署の職員が腹割って話すみたいに。
戦うのではなく、相手の願いをかなえるために力を使うみたいに。
カンフーのポーズで世界と対峙するのではなく、手を広げて、愛をもって世界を受け止めることはできる。

ポコポコとなるWe Chatのメッセージに、たまにはちゃんと返すこととか、
母を温泉に連れていくこととか、
わからないだろうと思って話してこなかった、自分が将来やりたいことを腹割って話すとか。

そんな小さい一歩で今のこの世界は変えられるのかもしれない。
お漏らししても、鼻でハエをすっても、マルチバースの力は得られないけど、でも、このメッセージを返信することが、私にはできる。

才能豊かな母に、感謝を伝えたい。ありえたかもしれない別世界との中で、自分との、小さな幸せを守ってくれて、ありがとう。


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