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Uターン。荒野の風が恋しくて(8) サボテンの花 風が吹けば歌が流れる

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30歳のころ、ニューヨークからアリゾナに取材に出掛けた。その数日は、荒野の魅力に圧倒される旅となった。

サンタ・フェの町からレンタカーを駆って目指したのは、「シップ・ロック」という大岩。何時間走っただろうか。やっと到着し、車を道端に止めて荒野に分け入る。アクセルを踏み続けた右足がジーンとして変な感じだった。

足元の植物は、全体として背が低かった。もちろん観葉植物みたいに青青してはいない。総じて、セージブラシという名で類別されていて、ゴワゴワで、まさにブラシのような感じ。過酷な条件下で生きる、シンプルで無駄のないフォルムが美しかった。赤い土の荒野に生えるセージ色の低木に、ボクはいっぺんに魅了されてしまった。

「なんて さりげないんだろう」。

 と、そこに、荒野に自生するサボテンも見つけた。霜にやられ、黒くなった部分もあって、キズついていた。よく見ると、しばらく前に花を咲かせた形跡がある。その時、ボクの頭の中に、突如、鮮烈なイメージが広がったのだ。

誰もいない荒野で、誰からも注目されることなく、サボテンの花が咲いている・・・。

いいなと思った。スナフキンのギターのような、風のような・・・。サボテンって、いいな。

アジアンタムという観葉植物が好きだったボクが、荒野を身にまとったサボテンへシフトしたのは、あの時だったと思う。やっと大人になったような気持ちがして、不思議だった。

風が吹けば 歌が流れる 彼方へ。 ここではない どこかへ。

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