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Gustav Holst / The Planets II. Venus 42-48

今日の一口Reaction/Analysis。ホルストの”惑星”のうちの一曲、金星からピックアップしてみたいと思います。穏やかで美しい緩徐楽章です。

今日取り上げたいのは42‐48小節の場面です。


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ふわふわと美しい夢を見ているような印象の場面ですが途中、奇妙なサウンドが入り混じってきますね。メロディー単体では、ぱっと見D#マイナーのように見えます。

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細かく見ていきましょう。

42-43小節

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ハーモニーで、一番引っかかるのが、C#がルートになっていることです。これ、原則通りに一番低い音から見てコードを考えるとC#7sus4(69)だし、でもルート音以外見れば純粋にB△7だし…  まあ、どちらでもとれるようにぼかしてあるんでしょうね。そのあたりが凡庸でないサウンドが出てくる、一つのコツなのかなと思いました。


ただ自分の中の結論としては、この場面は自分の耳にはB△7(onC#)と聴こえました。理由はコードの積み方にあります。
積み方として、コードのトップノートとメロディーで長7度の音程を作っています。この印象はかなり強くて、耳をBリディアンへと引っ張っていきます。透明感のあるサウンドを響かせる効果があるのと、長7度という特殊な音程でもって「これはBリディアンの歌なんだよ」と言っているんですね。
そしてコードのパートは密集した積み方になっていて、1オクターブの中に収まっています。こういう風にお互いが近い塊で響かせるとB△の何かの転回系のように聴こえます。例えばもし、この最低音のC#のみを1オクターブ下げた積み方だったとしたら、聴こえ方はぜんぜん違っていたでしょう。(ドミナントのC#7sus4のサウンドが強くなる)
コードの9thという変なベースなんだけど近づけて塊で鳴らしているからルート感がぼやけて、B△7add9のルートを省略している、という風に聴こえるのだと思います。

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先程メロディーはD#マイナーに見えると言ったんですが、前述のハーモニーの話を総合すると、どうもBリディアンみたいなんですよね。まあ、D#マイナーもBリディアンも構成音は同じで、どの地点から見てるのか違うだけなんですけど。

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今回はハーモニーの重力の中心がBにある、ということですね。

44-45小節

ここ、D7のコードの上にD#のマイナーが乗っています。これはJazzをやっている方にはもうお分かりですね。ドミナント7thコードの上で半音上の(メロディック)マイナーを弾くと、そうです、オルタードです!

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オルタードのサウンドが音楽史の中でいつ発見されたのかは知らないのですが、1914〜1916年に作曲されたこの「惑星」にも出てくるんだなあと感嘆。

前からの繋がりを見ると、B△7→D7の上でD#マイナー(ナチュラル→メロディック)をキープできるんですね。これはダイアトニックから逸脱する為のコード進行の一つの型として応用ができそうです。

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複数のコードを跨いで、(ほぼ)同じスケールを使いつづけることが出来るというのは作曲とか即興において重要な事で、コードに大きな展開を作りながら、かつメロディーを自然に聴かせることができます。

46-48小節

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最初と最後の小節は42-43小説と同じ要素になっています。問題は真ん中の47小節目で、これは難しいです。ハーモニーのパートはC#-F-Aのオーギュメントになっています。メロディーも含めてパッと見るとDm△7,Dメロディックマイナーに見えますが、最低音のC#から音程を見ると1,3,#5,♭9とC#7(♭9,♭13)から♭7を省略したオルタードの様なコードに見えます。(セブンスコードにテンションいろいろ突っ込んだ上で♭7を省略するって、新鮮な考え方ですね)
Dマイナーのルートだけ半音下げたと考えるのか、C#の複雑なセブンスコードと考えるのか?
自分はここでも、そのどちらかにはっきりと分類してしまうことにあまり意味はないような気がしています。作者は単にこのモーダルな、非ダイアトニックな変化をしたサウンドの色彩をこの場所で使いたかったのだと思います。
例えばDm-Dm△7の様なポップスにもよく現れるクリシェの前後関係があればDmと聴こえるでしょうが、そうはなっていない。だが一方でC#7とはいっても、それが次にF#なんちゃらにドミナントモーションして解決するのかといえば、そうはなっていない。
だからこの珍しいハーモニーの響きを積み方まで含めてこのまま自分のボキャブラリーにするよう努めるのが良いような気がします。

横のメロディーの変化としては結構わかりやすく、Bメジャー→Bマイナーとなっています。もっと正確に言うとBリディアン→Bロクリアン#2というのが妥当なのでしょうが、まあいいでしょう。Bのキーの中で第3音と第7音とその変化だけでこんなエキゾチックなメロディーとして成立してるというのが面白いですね。(7-3-♭3-♭7)

まとめ

それでは最後に、今までの分析を書き込んだ譜面を眺めながらもう一度この場面を聴いて終わりにしましょう。ありがとうございました。



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