見出し画像

Gustav Holst / The Planets I. Mars 167-171

今日の一口Reaction/Analysis。引き続きホルストの”惑星”から「火星」です。曲の終盤のクライマックスの場面です。


恐ろしく破滅的な大爆発が収縮と拡散を繰り返しながらだんだんと落ちていって…という場面です。物凄いエネルギー、分厚さ、エグみがあります。
フルスコアはこちら

画像1

複雑ですね。まとめるとこうなります。

画像2

やっぱり複雑ですね。
パッと聴いて分かるのはマイナーな、暗い方向性のサウンドであること、ルートの動きはⅠ-Ⅳ-Ⅴ,Ⅰ-Ⅳ,Ⅰ-Ⅳ…と比較的分かりやすい動きをしていることです。ぱっと見は大変そうですが、構成要素を見ると繰り返しが多いですね。

画像3

詳しく見ていきましょう。

一つ目のハーモニー

画像4

音が沢山積み重なっていますが、実は構成音はC-G-A♭-D♭の4音しかありません。低い音域ははCとGのパワーコード、高い音域は下からA♭-D♭-Gが3オクターブに渡って繰り返し積まれています。ノンダイアトニックなコードで、ハーモニーとしては相当に異常な不協和音です。Cをルートとしてみると、完全五度、短六度、短九度となっており、GとA♭が半音でぶつかることになります。(CとD♭は少し離れるように配慮されていて一番近くても短九度)2つのパワーコードを半音ずらしてぶつけてると見るとわかりやすいかもしれません。(D♭5/C5)
暗いサウンドなんですが実はここには短三度の音が入ってないんです。三度の音がない事で少し無機的な響きになります。Cmのような単純な感情の表現にはしたくない、ということなのですね。自分もCmよりもこのコードの方がこの場面に合っていると感じます。
使い所は難しいですが、変化球としてトニックの位置でこれだけエグく暗いサウンドをぶつけることが出来る、というのがイイですね。覚えておきます。

二つ目と三つ目のハーモニー

画像5

ここも単純ではないですね。
先程のC5(♭9,♭13)から4度進行してきたこの二つ目コード、いろんな解釈ができそうですがここではFmsus♭13としておこうと思います。
普通はこういう書き方しないんですが、響きを聴くと、通常であればFmとする所をひねって、5度を半音吊り上げたサウンドにしてるように聴こえました。これだけでも軽易ではない、含みのあるマイナーのサウンドになります。

三つ目のコードは明らかに一つ目のC5(♭9,♭13)のコードに向かって解決するドミナントの機能があるように聴こえるのですが、なんとこれG7ではなくてG△7なんですよね。(!) しかも増5度なのでGのオーギュメントでもあるんですよ。リディアン・オーギュメントや!
そしてこのコードの響きの面妖さですよ。先程も言いかけましたが、三度という音程の有る無しはサウンドの有機的か無機的か、に関わってくると思うんですね。GオーギュメントにはG-B,B-D#,D#-Bと3つもの長三度が入っていますから、これほどの有機的な艶やかさ、妖しさが生まれるのだと思います。
このリディアン・オーギュメントの面妖なサウンドの他の例としてはこのアルバムの1曲目の1:18あたりのサウンドも参考になると思います。自分も上手く使えるようになりたいです。


個人的にはこの3つ目のコードが一番感動しました。△7(♯5)ってドミナントとして使えるんですね。勉強になりました。

これで最初の2小節を見終えたのですが、残りの3小節は編成や強弱が変化しながらも最初の二つのコードの繰り返しになります。

画像6

このオーケストレーションも見所です。この反復の中で様々な楽器の組み合わせの妙を魅せてくれます。

画像7

1-2小節は一部の木管とホルン以外の金管、ティンパニなどの打楽器、オルガン、コントラバス
2小節目の最後から3小節目はほぼ全ての木管と弦五部とオルガン
4小節目は低音の木管とホルンと弦
5小節目に至ってはトロンボーンとチューバのみというところまで規模が縮小します。

いかがでしたでしょうか。以上のことを踏まえてもう一度この場面を聴いて終わりにしましょう。ありがとうございました。



この記事は無料で全文公開しています。記事が気に入ったら、(100円~) お気持ちを投げ銭的にサポートをしてもらえたらうれしいです。皆様のサポートによって音楽の研究を続けることが可能になります。また次の投稿でお会いしましょう!