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悪と花

自分自身のことを大切にしなさい。母から受けたのか、先生から受けたのか、それとも知らないおじさんから受けたのかもわからないこの言葉。正しさをデッサンしたらきっとこの言葉が浮き出てくるだろうというほどに透き通る正しさを持つ言葉。わたしをあらゆる不幸から守ろうとしてくれた。うかつさの隙間からにゅっと伸びた黒い腕がわたしの首元を犯そうとした時にも、この言葉はわたしを守ってくれた。その実感はある。

しかし、わたしはこの言葉が悪だと思う。

この言葉があるからわたしはわたしのことを大切にできなかった。この言葉が常にわたしを監視する。その視線がわたしの判断を鈍らせてきた。自分自身のことを大切にするということの論理がわたしにはついにわからなかった。どのようにしたらわたしはわたしを大切にできたことになるのだろうか。その証明証書はどこから発行されるのか。

だからわたしはこの言葉を悪だと思う。

この言葉があるからわたしはついぞ自分の大切な仕方を学ぶ機会を避けるようになってしまった。あのまま雪が降る道に立っていることができたら。あのまま蝋燭の火が消えるまで見つめることができていたら。あのまま本を読み終えることができていたら。その時にわたしはわたしを大切にすることを理解しただろう。わたしはわたしを大切にしようとしたあまり、わたしが傷つき、後悔に黒目を濁らせることも、罪に苛まれながら生きていくことを知らずにきてしまった。

わたしはわたしを大切にしようとしたあまり、空っぽになった。
だから、わたしはわたしを悪にする勇気も育てられずにきてしまった。

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