見出し画像

Web3業界の2023年の展望

2023年のWeb3業界は、一言で総括するならば、「模索」の年となるだろう。

以下の様々な切り口で未来展望を考えてみた。

DeFi / DAO / Wallet / NFT / Game / インフラ / 社会課題解決への応用 /投資 / 日本のWeb3

  • DeFi(分散金融)

    • 2023年、私が注目しているDeFiサービスがある。SecuredFinanceだ。既存金融の機関投資家が普通に利用するサービスの中で、Web3の世界にないもの。それは、年単位の期間での貸付・ローンサービス。なぜいまだにないかと言うと、鶏と卵の関係にはなるが、市場原理に基づく、年単位での金利の確定方法がないから。既存金融の世界にいる大手機関投資家からすると、既存債権などのように、長期運用を前提にした金融商品が必要であり、大手機関投資家がWeb3領域に参入するためにはなくてはならないサービスだ。

    • その隙間市場(市場規模は大きい)を埋めるサービスとして今年のQ1にローンチ予定なのが、スイスに拠点を置き、伝統的な金融工学を活用した商品開発経験&ハーバード大学で学んだコンピュータサイエンスの知識&Web3の知識、を併せ持ち、かつ、日本人Founderが率いるSecuredFinanceのサービスだ。

    • グローバル市場で勝てる可能性があり、かつ、グローバルのDeFi市場規模自体を拡大するきっかけとなるSecuredFinanceには大いに注目したい。

  • DAO(分散型自律組織)

    • 2023年は、DAOにとって暗中模索の年だ。

    • 直接民主主義が理想通りに機能しないから間接民主主義があるのであり、直接民主主義を前提とした現状のDAOの運営モデルでは、多くのDAOが機能不全に陥り、DAO懐疑論が大きくなる。

    • 現状のDAOのトークンは、インセンティブの受領権とガバナンスへの参加権の両方をミックスしてしまっている。そこで、DAOの設計において、インセンティブとガバナンスを分けて考え、参加者にインセンティブの受領権を持たせつつも、ガバナンスは中央集権的または委任形式で行われるなど、さまざまなトライアルがなされる。

    • また、DAOはすなわちコミュニティである。コミュニティは生き物と同じく、それぞれに性格や特性があり、そして成長する。従って、コミュニティの性格や特性に合わせたインセンティブ・ガバナンスの設計が必要であり、コミュニティの成長段階に応じて、ガバナンスの仕組みを柔軟に変更することを前提としたDAOの仕組みが生まれてくる必要がある。

    • 様々なDAOでの成功・失敗を通して、どういう性格のどういう規模のコミュニティだとどういう設計するべきか?のDAOの設計フレームワークができてくるはずだが、それにはまだ数年かかるだろう。

    • 一方、うまくいくDAOの中で働き、トークンで報酬をもらうユーザ向けの、給与支払いサービスや税金計算サービス、オンチェーンデータからの経歴書作成サービス、採用支援システムなど、DAOやWeb3の労働市場をターゲットにしたSaaSサービスは着々と生まれ、成長していく。但し、市場規模はまだまだ小さい。10年というスケールでの時間が必要となると思うが、この市場が大きくなった時に、今のタイミングでこの分野のトップを走るプレイヤーが市場を握っている可能性が高い。

  • Wallet

    • Walletは、Web3を利用する上で、インターネットを利用する際のブラウザのようなもの。Walletの普及無くして、Web3の普及はない。

    • 現状もっとも普及しているWalletであるMetamaskは、インターネットのブラウザに例えると、Mosaicの段階。仕様を実装してみたというレベル。ブラウザでいうNetscapeのような一般ユーザが使うことを前提としたUXを備えたウォレット開発が必要である。

    • すでに消費者向けに色々なWalletが開発されているが、2023年も、これまで以上にUXを高めたWalletがたくさん出てくるだろう。但し、消費者向けWalletの”一時的な“勝者が決まるにはまだまだ数年かかる。”一時的“というのは、最終的には、OSやプラットフォーマーが、Walletをバンドルすることで勝負が決まる。これはネットスケープが市場を席巻したように見えて、最終的にはWindowsのInternetExploreや、AppleOSにおけるSafariにネットスケープが駆逐されてしまった歴史と同じである(その後にChromeがさらにきたが)。

    • 企業向けには、企業のWeb3への取り組みが進むにあたって、MPC(Multi Party Computing) Walletの開発・普及がゆっくりと進む。現状のマルチシグ Walletでは、署名する承認者の数を変更するなど、組織体制が変化する企業の実際の現場の状況には対応できないからである。

    • 消費者向けWalletスタートアップのイグジットは、IDOやICOでなく、M&Aが中心になる。ブロックチェーンプラットフォームが、MPCやAccount Abstructionの技術を使ったWalletを買って、自社プラットフォームに取り込み、ユーザにとっては、Walletを意識せずにWeb3サービスを利用するようになる、というのが最終段階だろう。

  • NFT

    • Starbucks、Nikeなど、先進的な大企業によるメンバーシップ・ロイヤリティプログラムにNFTを適用したいくつかの成功事例が生まれる。広告代理店によるブランド企業への提案の中に、この領域の提案が積極的に行われるが、メンバーシップ・ロイヤリティログラムへの適用は、技術面というよりも、ブランドのコンセプト設計にも関わるし、スタートした後の継続的な運用設計までを行う必要があり、同じ規模・継続期間での事例はまだ多くはできてこない。まだまだ事例の蓄積・研究が必要であり、期間を限定した形での実施がメインとなる。

    • 不動産、その他、既存のさまざまなリアルの価値資産の流動性向上のためのNFT活用の事例が増えてくる。しかし、本来は、既存のリアル資産の権利とNFTとの結びつけを保障する信頼機関が必要であるが、その機関を本当に信頼できるのか?という問題が根本課題として残る。2023年時点では、リアル資産の権利とNFTとの結びつけがされているもの、されていないものが混在し、詐欺事例も多く発生する。

  • Game

    • モバイルネイティブのWeb3ゲームが多く出てくる。

    • Web2のゲームプロバイダーや、トラディショナルな大手ゲーム会社も参入するが、既存のゲームプロバイダーは、Web3ならではのゲームと言うよりも、既存ゲームをベースに、NFTをゲーム要素として一部絡めた形でのWeb3との融合を模索する。結果的に、Web3ゲーム業界におけるクオリティのレベルが一気に上がり、新規参入者は、Web3ならでのゲーム開発に特化せざるを得なくなり、Web3ゲームの業界が大きく2つの流派に分離にする。

    • ゲームアプリ自体にWallletが組み込まれるようになり、この場合、ユーザは暗号資産のWalletを使っているという意識はなく、一般ユーザがWeb3に接触する最初の入り口の役割となる。

  • ブロックチェーンインフラ(ここは、多くの人が書いていると思うので、かなり省略しています)

    • ブロックチェーンを発展段階で分けると、第1世代:Bitcoin。第2世代:Ethereum。第3世代:Solana/Near/Avalanche/Polygon/etc.

    • 2022年のFTXの破綻をきっかけとして、第3世代の中でも、FTXがバックアップしていたSolanaは、価格もコミュニティのパワーも急速に減速する。技術者が他のブロックチェーンに移行していく。

    • 2023年、Aptos、Sui、Lineraと言った、第4世代ともいうべきL1ブロックチェーンの開発が進み、既存のLayer1ブロックチェーン上のDappsのAptos / Sui / Linera版の開発競争が起こる。しかし、他のチェーンからのDappsの移行では、他のブロックチェーンからユーザを奪っているに過ぎず、市場規模全体の拡大には貢献しない。Web3市場を拡大するためには、これまでにないWeb3を利用したユースケースが、アプリケーションのレイヤーで生まれてくる必要がある。  

  • 社会課題解決への応用

    • 「Web3」を、技術視点ではなく、イノベーションの起こし方の視点で見た場合、「多くのステークホルダーが『ビジョンに賛同』し、多くの『賛同者が参加』することで、イノベーションを起こすこと」と言う風に捉えられる。Bitcoinに当てはめると、法律や中央の権威によって通貨を作るのではなく、Bitcoinの「ビジョンに賛同」したMinerやユーザが、Bitcoinのネットワークに「参加」することで、「世界通貨」としてのBitcoinのイノベーションが起きた。こう考えると、Web3の仕組みを使ったイノベーションは、多くの人に賛同されるような社会課題の解決に、とても相性が良い。

    • その一つの事例が、イーサリアム・ファウンデーションとUNICEFが行っている、発展途上国を含めた世界中の学校をインターネットに接続させることを目標とした「GIGA Initiative」や、ケニアの農業向け保険『Etherisc(イーサリスク)』だったりがある。

    • 手間味噌煮にはなってしまうが、私も関わる、法律を変える事なく結婚や家族の概念を拡張しようというFamieeプロジェクトもそうだ。Famieプロジェクトは、2021年に日本において、同性カップル向けのパートナーシップ証明書の発行を開始したが、2023年にはさらに、異性を含めた多様な家族形態のカップルに向けたパートナーシップ証明書の発行に発展し、また、海外での展開も模索する。

    • 結婚・家族という概念は、世界中の人にとっての共通で持っている概念であり、それをWeb3の考え方を利用して、現代のニーズに合わせて拡張するFamieeプロジェクトは、日本発で世界に広がるポテンシャルを秘めたプロジェクトとして、注目したい。

  • 投資

    • 私は、2015年頃からブロックチェーンに興味を持ち、個人的にも学びたいという気持ちがあったことと縁に恵まれて、渡辺創太くんが率いるStake Technologyや、後にFTX Japanになった仮想通貨取引所Liquid、に初期投資家として関わる機会を得た。また、2019年からはホットリンクとして、世界の様々なWeb3スタートアップへの間接投資を行い、2022年からはシリコンバレーを拠点としたNanogon Capitalを設立し、グローバルのWeb3スタートアップへの直接投資を行ってきた。投資領域は当事者である。

    • 2022年には、NFTの市場価格の下落、トークン価値の下落があり、最後にはFTXの破綻がダメ押し的なインパクトを市場に与えたことで、投資家もスタートアップ側も、将来的なトークンの値上がり期待に対して、慎重になった。

    • そこで、2023年以降のWeb3スタートアップの資金調達は、トークンを前提としたSAFT(Simply Agreement for Future Token)での資金調達から、従来型の株式を前提とした資金調達方法であるSAFE(Simple Agreement for Future Equity)の契約書に、トークン・サイドレター(将来、トークン発行した場合の権利に関する覚書)を組み合わせた投資契約を基本とした資金調達方法に流れが完全に切り替わる。さらに、一旦はトークン発行を前提とせずに、資金調達するWeb3スタートアップも増えてくる。

    • 調達時のバリュエーションは、2022年時に比べて数分の1に下がる。VC側からみて、従来のような、Deckをみて一週間で判断しないとディールに参加できないというようなことはなくなり、時間をかけて投資判断ができるようになり、かつ、Pre SeedやSeed段階でも、一定のトランザクショを求めようになる。売手よりも買手の立場がより強くなり、タームも投資家に有利な条件で交渉される場面が多くなる。

    • 有名VCのWeb3スタートアップへの投資のニュースが大きく取り沙汰されるようになる一方、その裏で、ブロックチェーン上のオンチェーンデータを活用したプロジェクトの評価・未来予測や、SNSやGitHubから有力プロジェクトを早期に発見し、VC側から早期にコンタクトする、というような、データ分析の技術をVC投資に取り込むような、テクノロジーを強みにする新興のベンチャーキャピタルが虎視眈々と力を貯めていく。私も中心となって牽引するNonagon Capitalは、このトレンドのプレイヤーになる。

  • 日本のWeb3

    • 政府がWeb3立国に向けた議論・検討を加速する。しかし、 税制改正がされるも、施行が2024年であったり、規制改革の中身が海外の制度に追いついたレベルなので、多くのWeb3スタートアップが海外に飛び出していくモーメンタムは変わらないだろう。

    • 一方、TOYOTA / SONY / Docomo / SoftBank / リクルートなど、世界的な日本企業がAstarと提携することでWeb3への取り組みをスタートする。法規制に対応しながらの取り組みになるので、海外エンティティを活用するなど、実施のスキーム作りには相当な苦労を伴うが、これらのグローバル企業がWeb3に取り組む動きを見せることは、日本発のパブリックブロックチェーンであるAstarがグローバルに存在感を発揮するための非常に強力なバックアップになる。

    • 海外で法人設立した日本のWeb3起業家達の中で、着々とグローバル環境に適応し、ゆっくりではあるが、グローバルに根を張って成長していく起業家がいる一方で、資金調達やグロースに苦しみ、帰国する、もしくは、成功しているプロジェクトに合流していく流れが生まれる。

    • 國光さん率いるFiNANCiEの拡大スピードが加速する。FiNANCiEのモデルは世界的にみてもとても面白い。一般的に、世界のWeb3のプロジェクトは、資金調達やトークン配布のプラットフォームと、配布後のステークホルダーとのコミュニケーションプラットフォームが分離されている。Web3プロジェクトは、Discord・Telegram・Twitterなどなど様々なツールを縦横無尽に活用してステークホルダーとコミュニケーションしないといけないが、FiNANCiEの場合、資金調達したプラットフォーム上で、ステークホルダーとのその後のCRM的なコミュニケーションも完結できる。Walletのインストールなども必要がない。ユーザが成熟していない日本市場ならではの手法だ。IEOによる資金調達の後に、FiNANCiEが世界に展開できるのか?に注目したい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?