#58 体幹トレーニング

右膝の外側の靱帯を痛めてから、しょうとは火曜日の夕方、治療院に通院している。しょうとには、投げる時も打つ時も、股関節を使ってのスムーズな体重移動が難しく、結果として、膝に負担がかかり、痛くなったと診断された。そこで膝の痛みの治療に並行し、ケガの予防として体幹トレーニングを行うことになった。トレーニングを指導は女性の先生だ。

はじめは、体感トレーニングの一本歯下駄を履いて治療院での歩行だった。先生は「この下駄で、その場で足ふみして~。始めは、柱をもってもいいから~。」といってトレーニングが始まった。慣れてきたら、待合室までの3メートルほどの往復が始まった。「ふらふらしないで歩こう」「足の指は、上を向いたらあかんで~」「後ろに体が反ったらあかんで~」などと指導されていた。「しょうと君、膝が痛かったら困るやろ。野球を頑張りたいんやろ。」と言われ、しょうとも「ハイ」と言ってトレーニングを続けていた。しょうとの一本歯下駄での歩行は、見ている私にも大変そうに見えた。

「次はこれしようか。先生がやるの、見て~。」と言って円盤の形をしたバランスボードに先生がのった。「はい、しょうと君。ゆっくり1・2・・・って10まで数えて~」と先生が言った。しょうとが、バランスボードに乗っても、すぐにバランスが崩れ、安定してバランスボー乗り続けるのは難しかった。「しょうと君ほんまに野球やりたいの。上手に体を使うと、ケガもしないし、もっと野球も上手になるからがんばろ~。わかった?はいもう一度」と先生が励ました。繰り返し、バランスボードにチャレンジしていた。しょうとが、あきらめかけたとき先生が「しょうと君、プロ野球の選手は、ホームラン打つ練習ばかりしてへんで~。自分の苦手なことを、繰り返して練習してるんやで。好きなことばかりやってるのと違うで・・・」といった。しょうとも、「ハイ」と言って続けた。ようやく10まで数えることができて、先生は「しょうと君その感じ。しょうと君できるやん。コツがつかめてきたやん。」と励ましてくれた。

男性の先生の治療が終わって、次回の予約をとって帰路についた。しょうとは、「体幹トレーニングって、やり方は簡単やけど、やってみるとほんまにむずかしいわ。先生の言うように、繰り返して練習することやと思うわ。」と言った。私が「家にあるバランスボードでトレーニングしたら」というと、「そうやな~。家でも練習するわ。けがをしないようにすることは大事やからな。けど・・・・毎日練習する自信ないわ。俺・・・根気ないからな~。・・・・・せやけど、ジャイアンツの野球選手になりたいしな~」しょうとの言葉には、『強くなるためにしなければならないと思っている自分』と『毎日続けることのできない弱気な自分』・理想と現実がまじりあった複雑な気持ちが表れていた。

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