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迷インコと僕の夏 【2話目】

保護することを決めた僕だが、大きな問題があった。
インコが生きていくには保護が必要なように、
人間である僕が生きていくには労働が必要なのだ。
そう、僕は仕事に行かねばならんのである。

もちろん僕の家にはケージもなければ餌もない。
だが、僕は自分のおまんまを得るために外に行かねばならない。
苦渋の決断だった。
部屋に新聞紙を敷き詰め、糞の対策をし、水を大量に用意し家を後にした。
餌には砕いた米を与えるといいと聞いたが、
貧乏学生である僕の家には米すらなかった。
夜には飯をやるからなという、熱い約束をインコとした僕は、
少し後ろめたい気持ちで家を出た。

やっとこさ労働を終えて、僕は家路についた。
次の日が遠足で興奮して寝られない小学生のようにソワソワして業務をこなしていた僕を、
周りの社員さんはどう見てたんだろうか。
薬物でもやってるんじゃないかと思われてなければいいけど、、

そんなソワソワしてる僕だったけど、
意外と冷静な判断力を有していたんです。
なんせTwitterで拡散して飼い主を探すという、
藤井聡汰バリの読みを見せた僕。
そんな僕が指した一手は警察に届け出をするという一手だった。
多分一般人では思いつかない至上の一手。
僕の頭の中ではなぜか、PUNPEEの「お嫁においで」が流れていた。

警察署にインコが飛んできましたという旨を伝えに行った。
警察の方に事情を話す。
話してる時の僕といえば、
助けてやったぜっていう自己肯定感と、
飼い主さん届けてないかなぁっていう期待と、
すぐ見つかったらお別れなのかぁっていうちょっぴりの不安を抱えていた。
急に誇らしい態度を取りはじめたり、
質問に目を泳がせたり、
もはや犯罪をおかしてるやつの動きだっただろう。

特徴を伝え、いざ検索。
期待と不安の重圧がのしかかる。
小学校の時、休み時間にお腹が痛くなり、
人がいないことを祈りながら各階の便器を探し回るあの感じ。

いざ、結果発表……!!
「あ、似ている鳥が少し前に届出が出てますね」
安堵とほんの少しの寂しさ。
そうこれは、まるで、まるで、、
好きな女の子にいいタイミングを見て「か、彼氏っているの??」
って聞いて、「ああ、いるよ笑」
って返された時の感情にそっくりである。
ああ、いきなり告白しなくてよかったという安堵と、
これで俺はもう付き合えないなという寂しさ。
そんなピンクとブルーの気持ちにさいなまれた僕は、
今すぐその場を抜け出したい気持ちになった。

そんなときに僕を救ってくれたのは、
さだまさしの「案山子」である。
元気でいるか?というあのフレーズを思い浮かべた僕は、
家で帰りを待つ迷インコの家族を想った。
覚悟を決めた僕は、
「でしたらこの交番に今から連れてきますね。」
と、バカリズムのような笑顔を向け完ぺきなパンチラインを放った。

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「あ、うちじゃ扱えないんですよ~
なので、明日以降に警察署の方に連れていってください。」
警察官が完璧なアンサーを返してきた。
今日でお別れだと覚悟を決めていた僕は、
虚を突かれ放心状態に陥った。

どうせ次の日にはお別れじゃんと思ったそこのあなた。
甘い、甘すぎる、グラブジャムンか。(世界一甘いお菓子)
警察署は平日しか対応しておらず、
この日は金曜である。
名探偵コナンを見て推理の勉強をしている方々ならもうお分かりだろう。
そう、土日もインコと過ごすことになるのだ。
私は、バカリズムの闇を抱えていそうな笑みから、
純粋無垢の赤ちゃんのような笑顔へと笑顔の種類を変え、
「では、警察署の方に届けておきますね~」と言い放った。

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ドキドキワクワクの交番を後にした僕は、
家にいるインコを想い、
今日の夜ご飯はカレーと聞かされた小学生のような足取りで帰路についた。
(続く)

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