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短文学集

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筋も思想も体系も、全部気にせず楽しむことを短文学と称して日々の感傷を綴る。
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2019年7月の記事一覧

鉛色のカーテン

 涙袋で水滴が弾け、思わず見上げた。今にも落ちてきそうな、重たい色をした雲が空一面に広がっていた。降りそうだな、という呟きに合わせて雨垂れが私の額で軽やかにステップを踏む。儀礼的に辺りを見回してみるが、この山間にあるのは田んぼと用水路ばかり。肩に提げた小さなカバンには読み終わった小説が一冊と目薬くらいで両手は自由だ。早くも周囲で木霊する、時雨の足音に対して抗う術はない。

 当分はこの人影のない下

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