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「売られた喧嘩を買う大人(1)」

田舎道を走る電車の中で、騒ぐ不良少年2人。
4人掛けのボックス席を2人で占拠している。彼らは音楽を車内に垂れ流しながら、電話の向こうの仲間たちと、昨晩の女たちとの行為を自慢げに大声で話あっている。周りの乗客たちは、彼らに警戒心を抱きながらも、そこにないものとして扱うのに必死だ。
だがそこに、背丈の低い明らかに気の弱そうな大人がやってきて、本来あと2人分空いているはずのボックス席に、無理やり座った。

不良A「なんだてめえ、ここ俺らが使ってんだろ。キモイな」
不良B「どけよ。喧嘩売ってんのか?」
それまで、何を言われても沈黙を貫いていた男は、“喧嘩売ってんのか?”に反応した。

男「喧嘩ですか?僕は喧嘩は売りませんよ。」と。
不良A「何言ってんだなめてんのか?」
売り言葉に買い言葉ととらえた不良Aは明らかにイラついていた。

男「喧嘩、僕に売ってくれるなら買いますよ。いくらで売ってくれますか?」
不良B「お前本気かよ笑。じゃあ5万だ。5万出せ。」
不良Bは明らかに男を馬鹿にした様子で5万を要求した。
男「・・・・。少ないですね。そんなものでいいんですか?」
不良A「じゃあ100万だせ。ここまでいって、出さないのはなしだからな。いいかお前、次の駅で表出ろや!」
男「100万円か。だせなくはないですよ。頑張ればね。手元に100万円がないので、ここに電話してください。売られた喧嘩は買いますよ。」
そういって、男は不良たちに名刺を渡し、「今日は頭金で」と、5万それぞれ渡して次の駅で降りた。まさか金を置いていくとは思っていなかった不良たちは、拍子抜けした様子で男を追うこともしなかった。

5万を受け取った次の日に、Aは男の名刺に書いてあった電話番号に連絡した。

男「やあ。この前の君だね。最初に僕に売ってくれた方ね。電話ありがとう。100万円は用意したよ。ただね。名刺にも書いてある通り、僕は普段東京にいてね。あいにく、とても忙しいから、取りに来てほしい。交通費は会ったときに渡すから、この前の5万円を使ってでもいいから来てくれ。」

それから、3日後、不良Aは東京にいた。

少年は男の指定した喫茶店で男からの連絡を待っていた。
(電話が鳴る)
男「やあ。本当に来てくれたんだね。長旅だっただろう。そこの喫茶店で何か適当なものでも頼んで待っていてくれ。あと10分で着くから」

そういわれて不良Aは普段は飲まないブラックコーヒーを頼んで待っていた。
10分が経過したころ、約束通り男がやってきた。

男「不良A君だね。この前は頭金だけでごめんね。ほらこれ、交通費。片道だけだけど、すぐにお金が手に入るからね。まずは片道で。それから100万円は約束通り用意したから。終わったら渡すね。」

“終わったら”その言葉で胸がざわついたような気がしたが、初めて飲んだ都会のカフェインがそうさせているのだと納得させた。

男「じゃあ、行こうか。僕はこの後予定があるから、先に行っちゃうけど、すぐにもう一人来るから。その人についていけば大丈夫だからね。じゃあね。」

誰が来るのだろう。いつ100万円が手に入るのだろう。男はわざわざ東京に俺を呼びつけて、本当は俺で遊んでいるのではないか。100万円にめがくらんだ馬鹿として。くそ。許さねえ。不良Aは、段々イライラしてきた。

その時だった。野太い声で「おい!こい!」と、大男が不良Aを呼んだ。

あまりに大男だったので、さっきまでのイライラが恐怖に変わり、不良Aは大男に言われるがまま、ただついていくしかなかった。初めて来た東京の、よく知らない道をずんずん進んでいく。
細い路地を抜け、古びたビルの玄関から廊下を抜けると、明るく光る部屋が見えた。

不良Aがその部屋に入ると、大きな歓声が沸く。
「うおーーーー!!」「キターーーー!」「これだよ!これ!」
様々な声が飛び交う明るくまぶしい部屋に、何が起きているのか理解できなかった。

ようやく目が慣れたとき、目の前にはあの男がいた。

男「よく来たね。それじゃあ、始めようか。・・・君の喧嘩、買ったんだから。」


(第2話へ続く)

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