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「売られた喧嘩を買う大人(2)」

”買ったんだから”
そう言われたとき、男の瞳孔が大きく開き興奮しているように見えた。

尋常じゃない雰囲気に、もう生きては帰れないんだと悟った。
同時に、これでいいんだと妙に冷静になっていた。


お袋は17の時に俺を産んだらしい。
親父に会ったことはない。妊娠が分かって逃げたらしい。
3歳になるまで、ばあちゃんと暮らしたらしい。
5歳になるころにお袋と二人で小さなアパートに引っ越した、らしい。


ガキの頃の記憶はほとんどないが、ずっとイライラしていたことは確かだ。


生きていることに意味が見いだせなかった。
母は俺を何で産んだんだろうか。意地なのか。付き合わされている俺の身にもなってくれよ。そんなことを考えると、イライラしてくる。

発散しないと、ぶっ壊れそうだった。

中学に入ってすぐ、声変わりもして、身長も急に伸びた。それなりに友達ができた。先輩もできた。いろんな遊びを教えてもらった。童貞も捨てた。
遊んでいるときは、何も考えずに済んだ。
遊んでないと、頭がおかしくなりそうだった。


そんな日々を過ごしていたのに、担任から高校進学の話がきた。

「お前、高校どうすんだ。お母さんに何て言われてる。ちゃんと話しとけよ。」

一気に現実に引き戻され、どうしようもない不安と怒りがこみ上げた。

俺は教室から飛び出し、仲間のBと電車で町に向かっていた。
そんなときに、この男に会ったのだ。

ほんとは100万円なんて、どうでもよかった。
何でもいいから、行ってみたかった。東京にいけば、何かが変わる気がしたから。

でももういい。俺の人生はもう終わりなんだ。
これでいい。


男が指示した椅子に座り、
大男が俺の両手を椅子に縛り終えたすぐ後に、
後ろから声がした。



(第3話に続く)




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