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ビエネッタの悲劇

ビエネッタというアイスがある。長方形のケーキみたいな見た目で、バニラアイスの上に薄いチョコレートが被せてあり、他のアイスと比べたら少しお高いけれど、スーパーでも買えて手軽に特別感が味わえるご褒美スイーツである。

大学生の時、私はスーパーのアイス売り場の前でさんざん悩んでから、ビエネッタを手に取った。学生にとっては高級アイスである。当時の彼氏と食べようと、ワクワクしながら家に帰った。夕飯を食べ終わってから、彼にビエネッタを切り分けてほしいと頼んだ。

そこで、悲劇は起こった。

彼は切り分けたビエネッタを私の前に差し出した。視界に入ってきたのは、1センチくらいの極細幅に切られたビエネッタがお皿の上に倒されている画だった。

メロス‥‥いや私は激怒した。

ご褒美のビエネッタ。5センチ、いやせめて3センチの幅で食べたいと思わないのか!?と。

ここまで読んで、読者がどう思うのか私は非常に不安である。恐らく私と同じように「許せない!」となる人と「何が悪いのかさっぱりわからない」という人がいると思う。あるいは「理解はできるがそんなに怒るのはあんたが短気すぎる」という意見があるのは一応受け入れる。

今考えると、私もあんなに怒ることはなかったんじゃないかとは思うのだが、食べ物に対する価値観はパートナー選びの際には非常に重要な項目だと今でも思っている。

私は他人と比べても多少食べ物にこだわりがある。週に一回は外食をする家庭で育ったし、料理を作るのも好きだ。でも彼は外食をあまりしない家庭で育ったので外食が好きではないし、食事は生命維持に必要なものであって楽しむものではないという考えの持ち主であった。そんな彼がビエネッタを5センチの贅沢な幅で切り分けることを想像する方が難しいのだ。

私自身好き嫌いはほぼないので、共に食事をするパートナーにもなんでも美味しく食べて欲しい。外食もしたいし、たまには贅沢なものを食べに行きたい。旅行に行ったらお金を惜しまず現地の名物を口にしたい。

美味しいものを食べるのが生きがいなのに、相手に合わせてそれを我慢することで他の不満がどんどん膨らんでいく。それは彼だって同じだったと思う。「俺・私は我慢してるのに」が常に頭の隅っこにあると、途端に相手に優しくできなくなる。食事は毎日するものだ。そこの価値観が合わない人とは、他の部分でどんなに気が合っても日々を歩んでいくことは難しい。

数々あった彼との食べ物関係のいざこざを、私は『ビエネッタの悲劇』と命名してその痛みを胸に刻んでいる。二度と同じ悲しみを繰り返さぬように。ぜひ、歴史の教科書に載せてほしいものだ。

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