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子供の存在が創作に与える影響 マギー・オファーレル『ハムネット』

マギー・オファーレルの『ハムネット』について。

マギー・オファーレルは、1972年にアイルランドに生まれた小説家です。今回紹介する『ハムネット』が、全米批評家協会賞英女性小説賞を受賞し、世界的に知られる作家となりました。

この『ハムネット』という作品は、世界的劇作家シェイクスピアの結婚、子供たちの誕生、その子供の一人“ハムネット”の死、そして、シェイクスピアの四大悲劇の一つである『ハムレット』が上演されるまでが描かれた小説です。

『ハムネット』 マギー・オファーレル/著 、小竹由美子/訳 新潮クレスト・ブックス


この作品は、多くのシェイクスピアに関する本の中でも特異な点があり、それはシェイクスピア本人ではなく、その妻 “アン・ハサウェイ”(小説内ではアグネス)に主眼が置かれている点です。ですので、“シェイクスピア” という単語が登場せず、シェイクスピアが背景のような存在になっています。

“アン・ハサウェイ”という人物は、結婚当時26歳で、18歳のシェイクスピアとの子供を妊娠しておりました。その事から、若い才能あるシェイクスピアを唆して無理やり結婚したのではないか!?と考える研究者もいます。また、結婚後長い期間別居していたことや、遺言に「妻には二番目に上等なベットを!」と書かれていたことから、シェイクスピアは妻に嫌気が差していたのではないか?と、悪妻として描かれていることが多い女性です。(実際の所は、はっきりと分かっておりません。)
ですが、今作ではそのイメージを覆すような新しい“アン・ハサウェイ”像が提示されております。鷹匠であることに始まり、薬草を調合する能力をも持っています。また、女性特有?の直感の延長線にあるような予知能力のようなものも備えており、「シェイクスピアの才能を伸ばすには、彼はロンドンに行かなければならない!」と別居を決断したりします。そして、夫婦仲はラブラブとまではいかなくとも、お互いを尊敬し合い、嫌い合っているようなことはありません。

この小説は、以上のように女性の視点から描かれている点に加えて、子供を持つ夫婦と言う視点からも描かれています。彼らの長男“ハムネット”は、11歳で亡くなります。この事件は夫婦に暗い影を落とし、この試練を乗り越えることがなかなか出来ません。そして、この息子の死を克服するかのように、シェイクスピアは息子の名前をタイトルにした『ハムレット』を完成させます。(“ハムネット”と“ハムレット”は当時同じとみなされていたとの事。)
『ハムレット』には、殺されたの王の亡霊と、その復讐を誓う王の息子“ハムレット”が登場するのですが、亡霊としてでも息子に現れて欲しいという想いや、親子関係を見つめ直したい想いが込められているようにも見えてきます。

『ハムレット』の舞台であるクロンボー城(デンマークに住んでいた時、行ってきました!)


この小説の中のシェイクスピアの場合、息子の死が創作に大きな影響を与えています。結婚や恋愛が創作に大きな影響を与えることはよく聞きますが、子供の存在が創作に影響を与えることもよくある事なのだなーと思いました。(自分が子供を持つまで、あまり気にしなかったですが。。)
個人的には、恋愛や結婚よりも子供の存在の方が、影響力は大きいように思います。心境の変化に加えてライフスタイルが一変してしまいますからねー。(自分の時間が、生まれる前の四分の一位になるような。。。)

僕の奥さんが、この小説で描かれている“アン・ハサウェイ”と似ている所があったり、(注:女優のアン・ハサウェイと似ている!と言うことではありません。)親としてのシェイクスピア夫婦が描かれていることから、今の僕にとても響く作品でした。

ところで、先月『ドーナッツ園』という子供向けの作品を発表しました。(娘の為に書かれた曲になります。)今までは、自分の子供のために作品を作る人を見て「ダサいなー。」と思っていたのですが、何か知らぬ間に出来てしまいました。子供の存在の影響力は思った以上に大きいみたいです。

「ドーナッツ園」
作曲:高橋宏治
うた・作詞:田上碧
ピアノ:宮里倫史
アニメーション・監督:オダアマネ
ミックス・マスタリング:元木一成

Music : Koji Takahashi
Lyrics : Aoi Tagami
Piano : Motoshi Miyazato
Animation / Director : Amane Oda
Mix / Mastering engineer: Kazunari Motoki

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