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クルド人の留学生

2016年9月13日に書いたブログ記事を持ってきました。自分のための覚え書きです。


トリエステのコンサバトリーに留学希望の、クルド人の若い音楽家の手伝いをしています。

と聞いて、あなたはクルディスタンがどこか分かりますか?実は国ですらありません。トルコとイラクとシリアとイランにまたがってある、地域です。所属する国によって自治区だったり色々ですが、近年話題になっているイスラム国が本拠地としている地域と隣接していたりします。独立の機運も高まっているようですが、原油の産地も含まれているので、アメリカや連合軍の思惑も交錯している、非常に「ややこしい」地域です。

彼の国籍はイラクですが、イラクはクルディスタンの事をあまり良く思っていないらしく、必要な政府認定の書類の発行など、小さけれども致命的なトラブルが生まれたりすることもあります。肝心のコンサバトリーの入試には受かったものの、まだまだ問題は山積みです。

彼は伝統音楽を生業とする家族に生まれた優秀な音楽家です。まだ若いですが、地元に残れば演奏家や教師として、それなりに仕事はあるそうです。そんな彼が、楽器の腕を磨き、西洋音楽をより深く勉強したいと思い立ち、イタリアまでやってきた訳です。

僕は恥ずかしいことに、中東事情どころか、街や国の位置関係すら分かっておらず、今回慌てておさらいしなおす羽目になりました。彼の住む地域でもイスラム国相手の戦闘は続いており、時には遠くに爆撃の音を聞きながら音楽を勉強することもあったそうです。うまく言えませんが、僕らのような日本人がヨーロッパに憧れて留学してくるのとは、事情が根本的に違う気がしています。

彼と、教えてもらった音階で一緒に遊ぶ事ができて、「普通のクラシック音楽家はこの4分の1音はまず出来ないんだぜ、すげぇよ!」と言ってもらい、実際は僕が助けてる部分が大きいのに、こちらがお礼を言いたいような気分です。何て言うか、いかに僕らが普段から全く本質的でない余計な事を考えながら生きているかを教えてもらっているような気がします。

彼の留学が上手くいくことを願ってやみません。


2023年9月追記
彼はトリエステで学部と修士課程を終えつつあり、この地域で最も信頼され、また好感を持たれているコントラバス弾きの一人になっています。これからもよろしく!

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