終末配信フロンティア!②

シユと『謎のパワードスーツ』の二人は上位個体の天使の死亡を確認する。

更に、フロアに他の天使がいないかを確認する。
加えて、3階と通じる場所にバリケードを設置する。

そして、ようやく一息ついて、シユがパワードスーツに話しかける。

シユ「あ……あの……」

???「はい……」

シユ
「いろいろとお聞きしたいことがあるのですが……」
「えーと、お名前はなんて言うんですか?」

???「あ、はい、イブキセナと言います」

シユ
(イブキセナ? 苗字がイブキさんであってるかな?)
(性別はどっちなのだろう……)
(パワードスーツに包まれて顔も体型も分からないうえに)
(声質がちょっと機械音っぽくてわからないんだよな……)
(そのうえ、名前までセナというどちらもあり得る名前……)
(性別……聞いちゃっていいものだろうか……)

などと悩んでいると……

イブキ「えーと、そちら様は『神守シユちゃんねる』とありますが……これは本名ですかね?」

シユ「あ、えーと……違います」

シユは少し恥ずかしそうにしている。

シユ「えーとですね、ちょっと恥ずかしいのですが、本名は田中宝物ジュエルです」

イブキ「じゅえる……?」

シユ「えぇ……宝物と書いてジュエルです」

イブキ「な、なるほど……現代的なお名前で……」

シユ
「いいんですよ! キラキラネームと言ってくれて!!」
「苗字が地味なのが、これまた絶妙に……!」

シユは変に気を使われるのが耐えられなかったのか、あせあせした様子で自分から事実確認を行う。

イブキ「わ、私は人の名前になにか言うつもりはありませんよ(><)」

イブキは素顔は見えないのだが、感情表現機能として顔に表情の顔文字が表示することができる。

イブキ「えーと、それでシユさんとお呼びすればいいんですかね?」

シユ「はい! それでお願いします」

シユはぺこりと頭を下げる。

シユ「と、ところでイブキさんはこれまでどうやって天使から逃れてきたのですか?」

イブキ「天使?」

シユ「あっ……えーと、あいつらのことです」

イブキはしばし考えるように沈黙するが……

イブキ「あぁ……言われてみると、確かに天使っぽいね……ちょっと気持ち悪いけど……(^^;)」

シユ「ですよね……」

シユ
(私はずっと天使と呼んできたけど、言われてみると、誰かが定義したわけでもないし)
(ましてや共通の認識なんて持てるはずがなかった)

イブキ「あ、それで自分がどうやって、天使から逃れてきたのかだけど……」

シユ「はい」

イブキ「元々、自分はちょっと変わった趣味を持っていてね……」

シユ「……どんな趣味でしょう」

イブキ「アンドロイドを作ることだったんだけど……」

シユ「へー、アンドロイド…………あー、あのスマホの?」

イブキ「いや、そっちじゃなくて、リアルな人造人間というか……機械人間の方なんだけど」

シユ「あー、機械人間………………機械人間!?」

イブキ「う、うん……」

シユ(機械人間って……できるのそんなの!?)

シユ「そ、それでどの程度、たしなんでいたのでしょうか?」

イブキ「とりあえず脳……要するに、『心』以外は一通り完成してました」

シユ「へぇーーーー…………って、……ん?」

シユはあまりにも突飛な話に意味が分からなく、ついニコニコしてしまう。

イブキ「まぁ、そんな趣味が高じてか、自分の身体を機械にして実験してたせいか……感染を免れられたのかな……」

シユ(趣味とは一体……?)

シユ「えーと、つまりイブキさんは半分、機械ってことですか?」

イブキ「そうですそうです、いわゆるサイボーグですね!(´∀`)」

素顔こそ見えないが、イブキは軽い感じで応える。

シユ「な、なるほどです……」

イブキ「あ、ごめんね、せっかく会えた奴がほとんど人間じゃなくて」

シユ「い、いえ……そんなことはないです!」

シユはここだけはきっぱりと否定する。

イブキ「……」

イブキは一瞬、沈黙する。

イブキ「まぁ、普通の人間よりは確かに頑丈だとは思うけど、奴らに囲まれたら自分もひとたまりもないからね」

シユ「はい……」

イブキ「そういうシユさんはどうやって免れたのですか? 見たところサイボーグではなさそうですが」

シユ「はは……まぁ、それが自分でもわからなくて……」

イブキ「……!」

シユ
「確かに武術をたしなんでいたので、物理的な対抗手段は持っていたのですが」
「それだけじゃ、駄目じゃないですか……」

イブキ「そうだね。この天使の症状は、どうやら空気感染するみたいだからね……」

シユ「はい……だから理由はわかりません。私は運がよかったとしか……」

イブキ「……それはひょっとしてシユさんは『抗体』を持っているってことですかね?」

シユ「……どうなんですかね」

イブキ「うーむ、なんとも言えないけど、そうだとしたら、すごいことかもしれないよね」

シユ「もしかして、私の抗体を『別の人』に利用することができれば……的な話ですか?」

イブキ「そうそう……」

シユ・イブキ「「…………」」

二人は沈黙し、そして顔を見合わせる……

シユ・イブキ「「って、『別の人』って誰や!?」」

二人は爆笑するのであった。

……

シユ「話戻しますが、イブキさんはあの日から、これまで何をされていたんですか?」

イブキ
「ほそぼそと生存者を探していたよ」
「千葉方面から少しずつ東京側に移動しながらね」

シユ「え? ということは、もしかして私以外にも……」

イブキ「……」

イブキは首を横に振る。

シユ「……」

イブキ「自分にとってもシユさん……君が初めてだよ」

シユ「そうなんですね……」

シユは流石に、少し気落ちする。

シユ「でも……なら……本当によかったです。イブキさんが配信に気付いてくれて」

イブキ「正直、今日、近接ブロードキャストの通知があったときは本当に驚いたよ」

シユ「まさか本当に気付いてくれる人がいるなんて……おかげで少し……いや、だいぶ希望が湧いてきました」

イブキ「逆だよ……」

シユ「え……? そ、そうですよね……希望じゃなくて絶望……」

イブキ「いやいや、そうじゃなくて……!」

イブキは少し焦った様子だ。

イブキ「そうじゃなくて……勇気を与えられたのは『自分の方』です」

シユ「……!」

イブキ
「到着が遅れちゃってごめんね……」
「でも……つい……君の配信に見とれてしまって……」
「こんな世界であんなに綺麗に笑えるんだって……」

シユ「……!」

シユは、はっとする。

シユ「ほ、褒めても何もでませんよ!」

シユは照れ隠しするように、少し怒るように言う。

イブキ「はは……それは残念」

シユ「ん……? しばらく観てた……?」

イブキ「はい……」

シユ「え、えーと……どの辺から……?」

イブキ「2階突入辺りからですね」

シユ「……!」

シユの頭の中で、スリットから際どいところまで脚を見せていたサービスシーンが想起する。

イブキ「あ……サービスシーン、ごちそうさまでした(´ω`)」

シユ「っ……! わ、忘れてください!」

シユは赤面する。

イブキ「ごめん無理」

シユ「うぅ……」

シユ(誰も観てないと思って、あんなことするんじゃなかった……)

シユは涙目になる。

イブキ「でもさ、シユさんに出会えて、改めて思った」

シユ「……?」

イブキ「自分達以外にも生き残りはいるんじゃないかって」

シユ「……!」

イブキ
「きっと自分一人じゃできなかった」
「でも君とならできそうな気がする」
「このホームセンターを拠点に行動範囲を拡大して、探そう! 自分達以外の生き残りを!」
「もっとも自分は人類にカウントされるのかはちょっと怪しいですが……(^^;)」

イブキは苦笑いする。

シユ「カウントされますよ!」

イブキ「……!」

シユ「だって、観てくださいこれを!」

シユは同時接続数1の画像をイブキに見せる。

シユ「記念すべき同接1がちゃんと刻まれてるじゃないですか!」

イブキ(基準それなんだ……ってか、キャプチャ撮ってたんだ……)

シユ
「イブキさん! やりましょう!」
「目指せ! 同接100!!」

シユは意気込む。

イブキ「はい、僭越ながら協力させていただきます」

と、

ぐぅうううう

シユ「……!」

シユのお腹がなり、シユは赤面しながらお腹を押さえる。

イブキ「……? シユさん、お腹すいてるの?」

シユ「え……、まぁ……でも幸いここにもきっと缶詰が……」

イブキ「ひょっとして、シユさん、最近、ずっと缶詰?」

シユ「え……? えーと……」

シユはもじもじしている。

イブキ
(心なしかシユさんからサバの臭いが……)
(きっと我慢してきたんだろうな……)

イブキ「もしよかったらですが、新鮮な食材、入手しにいきませんか?」

シユ「えっ!? 手に入るんですか!?」

イブキ「えぇ……今がちょうど旬ですから……」

シユ(今が旬……? なんだろ……で、でも……せっかく言ってくれてるから……)

シユ「ぜ、是非!」

イブキ「では、明日の早朝に行きましょう」

シユ「はい……!」


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