終末配信フロンティア!③

シユ「あの……イブキさん……ここは一体……」

イブキ「え? 公園だけど……」

シユ「そ、それはわかります!」

シユはイブキに連れられて、まだ薄暗い早朝の公園に来ていた。
公園といっても広場などではなく、樹木が生い茂っているエリアである。

配信を行っており、イブキが視聴している設定にしているのか、
同時接続数は1となっている。

イブキ「周辺の天使は片づけたけど、強襲には気を付けようね」

シユ「了解です……と、ところで、あの……イブキさんが言っていた新鮮な食材ってこんなところにあるんですか?」

イブキ「そうそう……って、あっ、いたいた!」

シユ「え……?」

イブキは樹木の方を指差す。

シユ「ひっ……!」

そこには、茶色い殻に覆われた5センチくらいの生物がもぞもぞと樹木を登っていた。

シユ「こ、これって……」

イブキ「セミの幼虫だよ」

シユ「……!」

シユは青褪める。

シユ「ちょちょちょ、マジですか!? セミって食べられるんですか!?」

イブキ「もちろん! あ、ここにもいる」

そんなことを言いながら、イブキはセミの幼虫をひょいひょいと拾っていく。

ホームセンターへ戻る。

シユ「あ、あの……何してるんですか……」

イブキは集めたセミの幼虫を手頃な木材にくっつけて待機している。

イブキ「あ、これはね、羽化するのを待ってるんだ」

シユ「う、羽化……? あの……やっぱり私……セミは……」

イブキ「あ、出てきた出てきた!」

シユ「え……?」

セミの幼虫の背中が割れて、ゆっくりと中から白い生物が出てくる?

シユ「ひっ……! 天使……!?」

イブキ「いや、セミだよ……(^^;)」

シユ「え……!? セミってこんな感じでしたっけ?」

イブキ「シユさんはあんまり昆虫とか興味なかったのかな?」

シユ「えぇ、全く……」

イブキ
「なるほど……昆虫ってのは幼虫とかサナギから羽化してすぐって大体こんな感じなんだよ」
「それで、身体や皮膚が乾いてくると、君の知ってる姿になるってわけ……」

シユ「な、なるほどです。ちょっと気持ち悪いですね」

イブキ「そうかな? それでね、この出てきた瞬間の渇いてない状態が……」

シユ「状態が……?」

イブキ「ソフトシェルっていって、最高に美味しいんだよ(⌒▽⌒)」

シユ「っっっ……!」

シユは言葉を失う。

イブキは携帯用ガスコンロにフライパンを乗せて、ソフトシェルセミ5匹くらいを油で炒める。
調味料なんかも入れる。

イブキ「できました……!」

デン!

シユ「あ、はい……」

セミの炒め物を出されて、シユはいぶかしげな顔をしている。

イブキ「どうぞ……!」

シユ「え!? 私からですか!? あの、まずはイブキさんが……」

イブキ「え……? そうですか? 貴重なので、シユさんに全部と思っていたのですが……」

シユ「いえいえ、そ、そんな申し訳ないですよ……ぜひイブキさんも食べてください」

イブキ「そうですか……では、はい……」

シユ(あれ……? 食べるってことはもしかして、マスク外すのかな……)

シユは少しドキドキする。

と、

シユ(って、えぇええええ!?)

イブキのパワードスーツの腹部が突然、開き、イブキはそこにセミを一匹、直接放り込む。

イブキ「あ、すみません。私、栄養は直接、取り込むタイプなんで」

シユ「そんなタイプあるんですかーー!」

イブキ
「はは、そうですよね。びっくりしますよね? そもそも身体のほとんどが無機物ですし」
「太陽光からのエネルギー補給も可能ですので、有機物の摂取はそれほど必要ないんですよ」
「だから、私はこれだけで大丈夫です」

シユ「あはは……なるほど……」

シユは苦笑いする。

イブキ「……というかですね、そもそもマスクを外したら感染しないという保証もなく」

シユ「……!」

シユは少し複雑そうな顔をする。

イブキ「それはそれとして、是非、食べてください! 味は保証しますよ!」

シユ「は、はい……せっかくですから……頑張ってみます……」

シユは生理的に昆虫を食べるということが、どうしても抵抗があるのか
少し嫌そうな顔をしながらも
しかし、せっかくイブキが作ってくれたのだからと
セミを恐る恐る口に運ぶ。

シユ「…………え?」

シユはセミを噛み締める。

シユ「え……? 嘘……」

イブキ「どうですか……?」

シユ「…………美味しい」

シユはぽっかり口が開いてしまう。

イブキ「ですよね……クリーミーなエビって感じですよね」

顔は見えないが、イブキは微笑んでいるような雰囲気だ。

シユ「美味しい! 美味しい!!」

シユはセミを次々に食べ、あっという間になくなってしまった。

シユ「ごめんなさい……」

イブキ「…………」

シユ
「私、イブキさんに会ってから、泣き虫になっちゃったみたいです」
「…………こんなに美味しいものが、この世にはあったんですね」

シユは顔をくしゃくしゃにして、ぽろぽろと涙を流す。

シユ
「すみません……笑顔でみんなを明るくするのが私のちゃんねるのコンセプトなのに……」
「いや、みんなって誰だよって話なんですが……!」

シユは一生懸命、涙をぬぐおうとする。

イブキ「……嬉し涙はノーカウントでいいんじゃないかな?」

下記、ダイジェストで描画

・ホームセンター3階や駐車場の天使討伐
・ホームセンターの屋上まで開通
・家庭菜園を始める

シユ
「はい、どーも、こんにちは! 人類最後の配信者じゃなかった〝神守かみもりシユ〟です」
「それじゃあ、今日もお散歩配信、やっていきたいと……思いまーす!」

シユは元気にタイトルコールする。
後ろには、パワードスーツの人物も映っている。

シユ
「今日はですね、思い切って、もう少し、西の方まで進んでみようかなと思います」
「目的はもちろん、行動範囲の拡大です」
「おかげ様で視聴者のイブキさんにもご協力いただきまして……」
「二人だと突発的なリスクが大幅減です!」
「なので、これまで以上に思い切って、エリアの開拓……ちょっとかっこよく言っちゃうと『フロンティアの拡大!』やっていきたいと……思いまーす!」

シユとイブキで、天使を倒しながら街を進んでいく様子をダイジェストで描画。

シユ「ところで、イブキさん、天使さんって翼がありますけど、飛んでるところって見たことありますか?」

イブキ「いや、ないですね……」

シユ「ですよね! 天使さんの翼はお飾りなんでしょうかね……」

イブキ
「物理的にも飛翔するためには、軽さと凄まじい筋力が必要ですからね」
「鳥とかって実はめちゃくちゃ軽いですし、すごい胸筋をもってますからね……」
「あの感じだと飛翔は難しんじゃないと思いますが……」

シユ
「なるほどです」
「天使さん、豆知識でした! 皆さんも参考にしてくださいね!」
「いや、だから、皆さんとは!?」

シユは以前と変わらぬ様子で、自虐笑いを飛ばす。

シーン変わる。

天使の集団が街中をふらふらと彷徨うように、歩いている。

と、

近接ブロードキャストの通知が表示される。

!?

天使の集団の中の一体……
元は女性と思われる個体がそれを観て、驚くような描画……

他の天使達がやや不審そうにその個体を見るが……
その個体は慌てて、ふらふらした雰囲気をかもしだす。
他の天使達も気のせいかというように、またフラフラと歩き出す。

一安心したのかその個体は、こそこそと集団を離れていく……

そして、少し離れたところに移動し、周囲に気を配りながら、
近接ブロードキャストの内容を確認する。

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シユ
「なるほどです」
「天使さん、豆知識でした! 皆さんも参考にしてくださいね!」
「いや、だから、皆さんとは!?」
~~~~~~~~~~

が流れている。

同時接続数が1から2へ変化する。

???「え……? うそ……? マジ……!?」

天使は驚愕している。


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