「大人の楽しい魔物狩り……狩られ」第32話

本作は連載作品です。第1話は下記です。
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「本当に残念……なのは、あなたです……」

「え……?」

 何かが高速で移動し、そして止まる。その何かは水谷。そして、水谷はなぜかブレイドを日比谷の首元にかざしている。

「水谷……てめぇもか!?」

 土間が水谷を睨みつける。

「いえ……そうではありません」

「あぁ!? 人殺しが何を言ってやがる!?」

「まぁ、それもそうですね。ですが、少し話を聞いてください」

「てめぇの話なんて……」

「土間さん!!」

「……!?」

 友沢が叫ぶ。

「何だ……?」

「僕は、水谷の話が聞きたいです」

「っ……」

 土間が口籠り、水谷が話を始める。

「平吉が言っていたんです。もしかしたら俺が皆を殺すと言い出して、日比谷部長が俺を殺そうとする状況が来るかもしれないって……」

「っ……!?」

 確かに言ったような気がする。しかし、先程まで自分が行おうとしていたことに対しては何の疑問も抱かなかった。

「日比谷部長……あなたのスキルは<ストップ>ではなく、<コントロール>ですよね?」

「なっ……!?」

 日比谷が驚きの表情を見せる。

「あっ! 確かにそうです。日比谷部長のスキルは<コントロール>でした」

 先程まで、捨てられた子犬のように、しょげていた早海さんが嬉々として語り出す。

「私の<アナライズ>のスキルで確認しました。最後のインターバルの時に、平吉さんに全員の能力を確認して教えて欲しいと言われていたので、教えました。あ、でも……アナライズでわかるのはスキル名だけです……」

「スキル<コントロール> ターゲットの精神を操り、行動を制御することができる」

「っ!?」

 日比谷はまるでスキル説明に記載された内容が一言一句違わず読み上げられたかのような顔をしている。

 読み上げた人物は、少しイントネーションが独特であるが、流暢な日本語で核心に迫る。

「つまり……洗脳……だよネ」

「王さんのスキルは<サーチエンジン>。キーワードに対する概要を知ることができる……だそうです」

 水谷が補足する。

「平吉さんに、<スキル><コントロール>について聞かれます。部長さんの能力とは知りませんでした」

 王さんは悲しそうに呟く。

「平吉の予想を代弁させてもらいますが、コントロールは精神を操る必要があるため、キメラに対しては、うまく作用しなかったのではないでしょうか? しかし、ターゲティングすることで行動が停止するという特性をうまく使っていたのでしょう。ですが、本来、人間に使うのが正しい洗脳スキルの使い方というわけです」

 水谷は続ける。

「これまで、人間に対しては、少なくとも、ミッション3で宇佐さんへの二度の攻撃指令。最後の全体会議で、土間さんへ……私が不問になることに対して疑問を呈する発言を促すなどに使用したのではないかと言っていました」

「え……」

 土間は豆鉄砲を食らったような顔をしている。宇佐さんはというと、いつものように、ぼんやりとしており、感情の変化は読み取れない。

「そして、あなたは、スキルを行使した一番最初に大きな失敗をしてしまったのではないかと……」

「っ……」

 日比谷は何かを言おうと口を開けるが反論の言葉が出てこない。

「あなたは私に対して洗脳を行い、月村さんを殺させた。このスキルのすごい……というか、恐ろしいところは、殺したことがまるで自分の意思であったかのように思えてしまうことです。現に、今も私は自分の意思で殺したと思えていますし、今となっては証拠は何一つありませんので証明はできません。ですが、この時、あなたは……というより、ほとんどの人は同様でしたが、殺した時にその相手に、スキルが移動することを知らなかった。あなたが抹消したかったコントロールの対象とならないターゲティングされないという能力である<ステルス>のスキルは私のところに来てしまったのです。元々、<高速移動>により、基礎能力では上位にあった私が<ステルス>を得たことで、あなたにとっての天敵が完成してしまったのです」

 日比谷に対し、一方的に攻め立てる水谷の口元は少々、にやけているようにも見える。

「あなたは本当に私が目障りで、仕方がなかったんじゃないですか? 私以外の全員に対しては絶対的優位に立てていたのですから。だからこそ、直接、私を殺すことが難しかったあなたは平吉を殺そうとした。なぜなら平吉の持つ<空間察知>と<シールド>の組合せは私の天敵だったからです」

 シールドの任意操作はそれなりに習得に苦労することは補足させてもらいたい。

「まぁ、平吉を殺したかったのはそれだけが理由じゃないかもしれませんが…… こいつの名前がずっと上にあることが耐え難かった気持ちはよくわかります」

 何かとても失礼なことを言われている気がするが、確かにと思わなくもない自分がいる。

「そうですね…… とりあえず日比谷さん、平吉にかけている<コントロール>を解いてくれませんか? そうでないとあなたを殺さなくてはなりません」

「お前の言っていることの多くは確かに合っている。スキルを意図的に隠していたことは認めよう。だが、待て……水谷…… これが全て平吉の罠ということは考えられないか?」

「……!?」

 心臓が強く鼓動を始める。

「平吉は、お前に、それらを事前に説明した上で、私に操られている振りをしているということだ」

「……」

 これまで毅然と語っていた水谷の表情に迷いが生じていることが確認できる。

「お前もさっき言っていただろ? 平吉にとって私は天敵だ。その天敵を排除するために、一芝居打ったということは…… っ……!?」

「!?」

 日比谷は、俺に対する疑惑の発言を中断する。

 中断というよりは言葉を発することが難しくなったのであろう。

「かはっ……」

 日比谷の脇腹からは光り輝くブレイドが突き出ていた。


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