「大人の楽しい魔物狩り……狩られ」第35話(完結)

本作は連載作品です。第1話は下記です。
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「いました……白いコートの女性です。スキルは<自己回復>です」

 早海さんがいつものように、ターゲットのスキルを教えてくれる。

 それにしても<アナライズ>のスキルは便利だ。こんな雑踏の中でもスキル持ちを発見することができるのだから。

「オーケーです。女性ですか……それじゃあ、早海先輩、お願いします」。

「わかりました。回復系の方でシングルスキルみたいなので、大丈夫だとは思いますが、何かあったら、鎌池さんもサポートお願いします」

「了解です」

 女性の時は早海さん、男性の時は鎌池さんがまずは会話を試みる。

 俺も何度かやってみたが、初対面の人との会話に対して、適性が全くないようだ。

 あそこにいた時は、多少、確変が起きていたのだろう。

 というわけで、今回は相手が女性なので、早海さんが担当だ。

 ほとんどの場合、会話だけで事足りるが、相手が何らかの好戦的な態度を示した場合、戦闘に発展することもなくはない。

 と言っても、大抵の場合、早海さんだけで何とかなるだろう。やはり、この人の才能は傑出した物がある。

 相手が男性であった場合、もう一人のスカウト班のメンバーである鎌池さんの出番だ。

 この人の爽やかっぷりには定評がある。俺も彼に初めて会ったときは、ときめきのようなものを感じずにはいられなかった。胸がドキドキしたのを鮮明に覚えている。いや、あれは単なる動揺であったような気もする。

 あの不思議な未来から、戻ってから三か月が過ぎようとしている。世の中はゴールデンウィークで浮かれているというのに、俺達はこうして労働に明け暮れている。

 俺達は、魔物殺しキメラキラーをまとめ上げるための組織を立ち上げた。

 水谷リーダーは大変、スパルタンな思想の持ち主であり、我々末端はそれに逆らうことは許されないのである。

 とはいえ、あの時のメンバーの大半が何らかの重役に着く中、役職を固辞した身ゆえ、あまり文句ばかりも言っていられない。

 スカウト班の役割は、魔物殺しキメラキラーを見つけ出し、組織にスカウトすること。

 ほとんど早海さんのスキルありきではあるが、おかげで三か月という期間で、四十人ほどの魔物殺しキメラキラーを見つけ出した。むしろこんなにたくさん魔物殺しキメラキラーがいることに驚いたほどだ。

 鎌池さんもスカウトされて入会し、その爽やかさを見込まれて、自身もスカウト班をしているというわけだ。入会というと怪しげな響きがして最初は抵抗があったが、実際、かなり怪しげな組織であるので致し方ないと思うようになってきた。

「今回は、一仕事でしたね」

 無事に仕事を終えた早海さんが素敵な笑顔で、にっこりとほほ笑む。スカウト班の仕事はここまでだ。後は、土間や宇佐さんが務めるトレーニー班に任せればいい。

「そうですね。いやー、まさかあの大人しそうな女性があんなに敵意、剥き出しにしてくるとは思いませんでしたよ。人は見かけによらぬものですね」

 確かにその通りではあるが、鎌池さん、あなたは割と見た目通りだと思う。

「ちょっと危ないところでした。平吉さん、助けていただき、ありがとうございました!」

 鎌池さんが俺に爽やかにお礼を言う。

「いえいえ、鎌池さんには一度、僕が死にかけたところを助けてもらってますから」

 未来に飛ばされたあの日、トラックに轢かれそうになった俺を助けてくれたのは、この鎌池さんだ。

「鎌池さん、あの時は本当に助かりましたよ」

「困っている人がいれば、助けるのは当然です!」

 鎌池さんは力強く答える。彼の両親は、どんな教育をして、こんな正義マンを育てることに成功したのだろうかと思う。

「……あー、でも、そういえばあの時、なんで私、あそこにいたんでしょうね。確かに近くに住んではいましたが、普段はあんなところ行かないのに……」

 鎌池さんが呟くようにそんなことを言う。

「……」

 それを聞いて、ふと、ある人のことを思い出す。とても大切な人だ。

 そう言えば、俺がぶつかってしまって、初めて会話した時、あの日の朝、トラックに轢かれて死にそうになったのをリーマンに助けられたことを話したっけな、などと思い出す。

「そう言えば、鎌池さんの回って、ファシリテイターって誰だったんですか?」

「え……? 白川っていう、いけ好かない女ですけど」

「っ!!」

 一瞬、普段見せないムッとした表情をした早海さんを俺は手で制止する。

「……?」

 鎌池さんはそれを見て、少し不思議そうな顔をしている。

「あの女、最後の最後でファシリテイターだってカミングアウトしやがって、ホント、騙されましたよ……正に極悪女でしたよ」

「あぁ、そうだったんですね」

 鎌池さんの時には、白川さんはすでにファシリテイターになっていたということか。

「でも、あんなことを104回もやってると思うと、多少、同情はしますが……」

「っ!?」

 戦慄が走る。

「今、なんて言った?」

「え、多少は同情するって……」

「そっちじゃない。回数の方……」

「……? 104回です。機械が、そう言っていましたが」

「……」

 鎌池さんは俺達があそこに行く前にすでに魔物殺しキメラキラーになっていた。だから、俺達より先にあれを経験していたのだと思い込んでいた。だけど、未来からすれば、過去のどのタイミングを対象とするかは任意ということか。

 104回だと……? 7回でさえ、多いと思えた。それが104回? しかも、それが最後というわけでもないよな……

 それよりも何よりも、あの人は104回目になっても、俺のことを覚えていてくれた。

 だからこそ、時期と場所が類似していた鎌池さんに<コントロール>の力を使って、俺を助けてくれたんだ。

「……今日、もう一人探そうか……」

「えっ!? でも早海先輩も疲れてるんじゃ……」

「大丈夫です。やりましょう」

「頼みます……」

 この際、人類の未来なんてどうでもいい。
 もう一度、あの人に会いたい。そう思えた。

 きっと自分なら彼女を救い出せる。

 根拠ならある。彼女が言ってくれた少々、荷が重い言葉――

 俺は一番の魔物殺しキメラキラー……奴らにとっての死神なのだから。

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【あとがき】
 ここまでお読みいただき有難うございます!
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