「大人の楽しい魔物狩り……狩られ」第26話

本作は連載作品です。第1話は下記です。
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「ど、土間さんっ!!」

 友沢が叫ぶ。

 だが、その叫び声に込められた暗に予想した結果は、良い意味で裏切られる。

「いてぇな…… ちくしょう……!」

 土間はむくりと立ち上がる。

「ど、土間さんっ!!」

 友沢の声は、先程と全く同じ響きであるが、今度は安堵と驚きが感じられる。

「この程度で死んでたら、前回のミッションで十回は死んでるってんだよ!!」

 前回のインターバルで、俺が仕入れた情報によると、土間のスキルは<倍率補正>というらしい。どうやら自身の攻撃の増幅、そして自身の攻撃の軽減ができるようだ。この能力の素晴らしいところは後がけが可能な点だ。要するに被弾してしまった後でも間に合うということ。恐らく、土間は単純な肉弾戦ならメンバー内で最強の戦闘力を誇るだろう。

「土間は大丈夫だろ! 切り替えろ!」

 そう言いながら、ゴンズイを次々に両断しているのは、金井崎である。

 金井崎はレーザー等の飛び道具を使用せずに空中にいる敵をブレイドで処理している。

 それを可能にしているのは、単純で、本人が飛んでいるからである。

 金井崎の保有するスキルは現メンバーの中では、唯一の飛行能力である<飛翔>というそうだ。

 原理はよくわからないが、ふわふわと宙に浮いており、自由自在に位置を移動できるようだ。もっとも、原理がよくわからないのは、この能力に限ったことではない。

 その付近では、鮫上さんは少ない動きでゴンズイの攻撃をかわしながら、仕掛けてきたゴンズイを確実に一体ずつ仕留めている。

 彼のスキルは<被弾点予知>というらしく、数秒先に攻撃される箇所が予め解るというもののようだ。

 前回のミッションで別働隊であったもう一人、横之内さんのスキルは<大鉈>。

 その名の通りであるが、明らかに他の人よりもリーチが長くサイズの大きいブレイドを振り回してゴンズイに応戦している。

 流石に、ここにいる人達は、単なる運だけで、生き延びてきたわけではないということを感じる。

 自分自身も木田から得たスキル<空間察知>と自身のオリジナル能力である<シールド>を組み合わせることで、堅守からのカウンターを軸にゴンズイの数を減らしていく。

「……」

 しかし、いくらゴンズイを倒しても、体感数は一向に減っているように感じられない。

 こいつらは、倒したら増えているんじゃないかとすら思えてくるほどだ。やはり本丸であるウツボ恐竜へ攻撃しなければと思考する。

「……!」

 そう考えたのは俺だけではなかったようだ。
 気付けば、鮫上さんが、ひらりひらりとゴンズイの猛攻撃を避けながら、ウツボ恐竜に接近している。

 ウツボ恐竜もそれに気づいたのか、鮫上さんを踏み潰そうと、左足を地面に叩きつける。

 しかし、その攻撃も鮫上さんは危なげなく避け切る。

「くらえっ……!」

 鮫上さんは、そう口に出しながら、右腕をテイクバックし、ウツボ恐竜の足首の辺りを目掛けて、ブレイドを突き立てる。

「っ……!!」

 しかし、その結果は、きっと鮫上さんが思い描いていたものとは大きな乖離があったのだろう。

 ブレイドはウツボ恐竜の肉を僅かも裂くことはなく、硬いゴムボールをコンクリートにぶつけたかのように弾き返す。

 鮫上さんは、まるで巻き戻されるかのように大きく仰け反る。

「え……」

「鮫上さん!!」

「あ……」

 鮫上さんの周りをゴンズイが取り囲んでいた。

「あぁ゛あ ああ゛あ ぁあ…………」

 大量のゴンズイはしきりに腹部の辺りを鮫上さんに擦り付ける。

 鮫上さんが、抵抗を示したのは最初だけで、すぐに動かなくなる。

 そして球体のように膨れ上がったゴンズイの群れに包まれ、その姿を確認することすら難しくなった。

 やがて生存者数が12から11へと変化する。

「ちくしょう!!  あのウツボ野郎……! どんだけ堅い皮膚してんだよ!!」

 土間が嘆く。

「それがわかっただけでも、鮫上さんに感謝しなければならないな……」

 金井崎がそのように呟く。

「部長! 恐れ入りますが、部長の<ストップ>の能力で奴の動きを封じることはできないのでしょうか?」

 土間が他の皆も聞きたかったことを日比谷に確認する。

「残念だが、脳の位置が高過ぎて有効範囲に入れない」

 日比谷が落ち着いた口調で返答する。

「……そうですか…… 金井崎! お前の能力でなんとかなんねえのか?」

「不可能ではないですが、荷重が加われば、それだけ飛行速度が遅くなる。あの大量の小型キメラの合間を縫って奴に近づくのは、部長へのリスクが高過ぎる」

 その言い回しから、金井崎は、あるいはそれが日比谷でなければ、リスクを負ってでも実行に移していたかもしれない。

「だが……すまない、土間に金井崎よ……仮にできたとして、あの質量だと、多少の隙が必要である上に、停めていられるのは数秒が限度かもしれない」

「そうですね……」

 日比谷の謝罪を土間が受け入れる。俺からすれば、そんな制約があるなんて聞いてませんよ? といった気分だ。

 土間は知っている風であったが、上の連中は、自身らの能力について情報共有しているのであろうか。

「まずは、あのうざい鳥魚をなんとかしたい……」

 今度は別方向から、今の流れとは全く関係ない思惑が聞こえてくる。
 うざい鳥魚をなんとかしたかったのは、宇佐さんであった。ボス戦では、まず雑魚の処理を行うのはゲームではよくあることだ。

 宇佐さんの体が発光を始め、その周囲を無数の光球がふよふよと漂う。
 そして、拡散レーザーをゴンズイが玉になっている箇所に向けて、放出する。

「え……?」

 しかし、宇佐さんは、思わず驚きの声を上げてしまう。

 拡散レーザーとゴンズイボールの軌道上に、ウツボ恐竜が立ち塞がったからだ。

 ウツボ恐竜は宇佐さんの拡散レーザーが直撃しているにも関わらず、大きなダメージを受けた様子はない。

「どういうことだ……? 守ったのか……?」

 友沢が呟いたように、ウツボ恐竜がゴンズイを守ったように見えた。以前、ウツボ恐竜が現れた時に近くにいたカワハギマンとは、獲物の奪い合いをしていたが、今回はそういった様子が見られない。まるで互いに助け合うかのように行動している。まさか、共生している……?

 ウツボ恐竜は、レーザーを受け切ると、そのまま宇佐さんの方に猛突進する。

 宇佐さんは、レーザーの反動なのかウツボ恐竜の突進の軸から逃れるような動作に移れていない。

「くっ……」

 回避を諦め、衝撃波で応戦するが、それもウツボ恐竜の進行を止めることには役立っていない。

 気づけば、ウツボ恐竜は宇佐さんのすぐ近くまで接近していた。

 今さらになって、心臓を鷲掴みされるような感覚に陥る。

「あ…………やば……」

 宇佐さんが呟く。


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