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嵐が来るのを待っている。牛釜の町に人々がみな立ち止まり空を見上げていて、くろい雲がどうぶつのようにうごめくのを見つめている。私は図書館の前に立っていて、周囲にもこの町の住人がいるのを認識しているが、その存在に意識を向けるにつれ、それが主に同級生であることに気づく。私は道路を見渡して手近な一人に声をかけようとする、すると彼が何かを早口にしゃべり、私は驚く、細かい意味はわからないが、否定の言葉であることがわかる。おろおろしていると静止していた彼らがざわざわと動き出し、西に向かって走り出す、私も焦ってそれについていくが、視界の端で、幾人か図書館に駆け込んでいくのを見る。彼らのことを気にしながら第三中学校に向かう足を止めない、何人かを追い抜いて、騒動の第一線、情報の最先端らしき、校門前の人ごみに辿りつく、そこでは数人の男子と女子が二十名ほどの男子と女子に向けて、大きな声で呼びかけつづけていた、群衆は校門の前や付近でぎゅうぎゅうになり、数人の方は校門のレンガの上に立って指示を出そうとしていた、反射的に、レンガの上に昇るべきだと判断し校門の横に続く塀の上を走り、群衆の上をジャンプする、すると、リーダー格の男子と女子のひとりずつ、土林と有屋が私に気づき、驚いたような困惑したような顔になる。私は何が起きているんだ、とできる限り冷静に言おうとするが、群衆の声がうるさく、聞き返される、もう一度言おうとすると、後ろにいた男につかまれ、群衆の中に落下する。押し合っている彼らの中によく知る顔を見つけながら、すぐ横にいた川口に、同じことを聞く、川口は私を見ると 何!どっちかにして!とわけのわからないことを怒鳴る、私は次第に腹が立ってき、この群衆をぶっとばしてやりたくなってくる。そして、手始めに校舎に入ろうとするが、何故だかこちらを押してくるものと、こちらを引っ張ってくるものなどがおりなかなか進めない、そこで私は近くにいた男の肩に手をかけ、川口の上に昇り、群衆をとびこえて中に入る。後ろをふり向くと、彼らは未だに押し合っていて、その数はもっと増えていた、レンガの上に登っているうちの一人、鈴木蒼が私に気づき、いつになく険しい顔で、別のレンガに指示を出している。私はむかつき、何やってんだ!と叫ぶ、彼らは私の言葉に耳を傾ける様子がなく、そして原田がレンガから降りてくる、私は彼を見、久しぶりだと叫ぶが、そういうことではないらしいということも、すでに理解している。私は校舎正門向かって左の道に走り出し、逃走する。渡り廊下の下を走りながら辺りを見るが、誰もいなく、変わった様子もない。曇り空に包まれた校舎はまるで日常的な、生気というものが見られず、これは異常な状況なのだと再認識する。校庭に出、一度振り向くと原田が私を追っているが、それは初めの差と比べると随分余裕があるように思える。気持ちよく走りながら、待ってくれ、僕は何もわかっていない、止まって説明してくれと叫ぶ。原田はそっちが止まれと言う、私はいらついたが、止まってやることにする。すると原田も走るのをやめ、ずんずんと歩いてくる、私は彼に合わせ後ろ向きに歩き、距離を保つ。彼は止まれと言う、お前が約束を破っている、お前が止まれと私はいう。すると原田は止まり、私も止まる。何をしてる、と原田が言った。知らない、何も知らないと私は言い、かさねて、0から教えてくれと頼む。これでわかるだろうと私は少し安堵したが、原田の態度は変わらない。とにかく出ろと言う、なんでだと私が問う、本当に出ていかないのか?と彼が聞く、私は何で妙にかっこつけているんだよと、減らず口を叩いてみる。すると原田は銀色の棒を取り出し、それを伸ばした、何だそれと私は答えたが、完全に、黒板を指し示すための、あの棒であることがわかっている。原田はその棒をムチのように振り回し近付いてくる。私は校門前の方で、ひときわ大きな声が立つのを聞く、原田の棒の軌道が段々、白い半球を形成し、傘を向けられている気分になる。私はすぐに逃げ出し、裏門の方へと駆けて向かう、何か衝撃の波動が体をすり抜けていったが、別段支障はない、原田は雑魚なのかもしれないと思う。門をとびこえると印刷会社の舗装した広い道が、いつもどおりきれいで、静かだった。原田は私を追わず、校舎の方へ戻っていく。

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