そうび:て:つめ

私はめんどくさい9割、香りが苦手1割の理由で化粧をしたことがない。
化粧を覚えること、実際に施す手間、また施した化粧を綺麗に落とすことを考えるとどうにも乗り気になれないのだ。
まあ、心のどこかにどうせ私が化粧をしたところで可愛く綺麗になれることはないだろう的な卑屈な思いもあるのだけれど。

そんな私が唯一お化粧に分類されるものでしていることがある。
それがマニキュアだ。
化粧品の香りが苦手なのに大丈夫なの? という疑問を抱いた方は正しい。マニキュアの匂いは嫌いだし、日によっては調子が悪くなったこともある。私はマッキーのシンナー臭に負けて図工の時間に機嫌が悪くなる子供だった。
でも私の中でそれをこえる魅力が感じられたのだ、マニキュアに。

マニキュアを塗り始めたきっかけは数年前、どうしても子供時代から続く悪癖の爪噛みがやめられなかったこと。
最初は何か塗ってれば爪を噛まなくなるだろうという、いわゆる子供の爪にわさびとかカラシを塗るよ、的脅しと近い発想で、爪の保護剤を塗ることにした。
速乾! 何も塗らないより爪に優しい! みたいなうたい文句の商品を買った。
今思うとほんのささやかな艶が出るかな? 程度の見た目の変化だったのだが、化粧品と縁遠かった私のテンションはものすごく上がった。
何がいいって、わざわざ鏡などを使わなくとも私の視界にチラチラと入ってくることだ。
もちろん爪に何かを塗っているという特別感でいつもよりは意識してはいたから、それもテンションアップに貢献していたことだろう。
でも今までやすりすら使ったことがないから、爪に艶を感じられる時点で凄く楽しかった。

爪に何かを塗ることの楽しさを覚えた私は、自然な流れでマニキュアを買うことにした。爪には優しくないが色がつくことで私のメンタル面には優しいことだろう。
問題は何色を買うのか。
母は薄めの自然で優しい色にすべきでは……? と言う。
でも、店頭で悩む私が心ひかれるのは、濃い青、濃い赤、そして黒。悩むこと一週間。
最終的に私が買ったのはラメ入りのうす緑だった。
薄い色をすすめる母と、私が見て楽しい鮮やかさの真ん中をとった、と言ったら母には訳がわからないという顔をされた。解せない。

そうして初めて買ったマニキュアは、私の技術の未熟さでダマとムラのさんさんたる有り様だったものの、結果として私はその後もマニキュアをどんどん買い足している。
そのラインナップは派手なものばかり。
衣服にも周囲からの私のイメージにも合わないことはわかっている。それでも私は私のために私が楽しい色を選ぶことに決めたのだった。

マニキュアを塗っている日は、爪が目に入る度に楽しい気持ちになり、少しだけ人が多い場所に出掛けたりするのが怖くなくなる。
テンションが上がりぎみになるだけでなく、今の私は爪が輝いているのだ、という謎の自信がわくからだ。
気分としてはRPGで装備品を身につける感覚に似ている。……気がする。
あと、昔からバス待ちなどでご高齢の方に声をかけられやすいのだが、それが減った。人見知り(直したいとは思っている)の身としてはありがたい効果だ。

マニキュアを塗る技術は一向に上達せず、爪噛みも塗るのを怠るとすぐさま再発し、頻繁に色を変える爪は多少乾燥気味だったりもする。
それでも私は爪に色をのせて、攻撃力(あるいは防御力)を上げて、いつもより少し笑顔が多い1日を過ごすことを選びたい。そう思ってマニキュアを塗っている。
ちなみに今日は鮮やかなブルーのラメ入りを塗った。爪が綺麗で凄く嬉しい。

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