NFTアートと著作権の関係を考えるにあたって抑えておきたい1つのポイント
■ 本noteの狙い
ありがたいことに、NFTアートの著作権法上の問題については既にネット上に以下のような優れた解説記事があります。
そのため、ある程度IT&法的な素養のある方であれば、いきなりこれらの解説記事を読めば足り、わざわざ本noteを読む必要はありません。
ただ、ITも法律もちょっと苦手かも…という方や、あまりやる気がなくても読める記事をお探しの方もきっといらっしゃると思います。
そこで、今回は、そんな方々でも無理なく読める超入門として、NFTアートと著作権の関係を考える上で絶対に抑えておきたいポイントを1つだけご紹介します。
■ NFTとアートは別物
結論からいうと、そのポイントとは「NFTとアートは別物」ということです。
そもそも、NFTアートは、「NFT」の部分と「アート」の部分とが組み合わさった言葉です。これら2つの部分は、少なくともNFTアートと著作権の関係を考える上では、一緒くたに論じることはできず、明確に区別する必要があります。
まず、このうち「NFT」の部分は、ブロックチェーン上に記録されたトークン(データのかたまり)を指します。あくまでもただの無味乾燥なデータのかたまりであって、美しいアートではありません。
冒頭のリンク先記事では、「アートNFT」(1つ目の記事)や「NFT」(2つ目の記事)と呼称されています。
他方、「アート」の部分は、みなさんが初めてNFTアートという用語を聞いたときに頭をよぎった(であろう)アート作品やコンテンツを指します。こちらもデジタルデータではありますが、目で見て楽しむことのできるものです。
冒頭のリンク先記事では、「NFTアート」(1つ目の記事)や「対象コンテンツ」(2つ目の記事)と呼称されています。
とはいえ、両者を区別しましょうといきなりいわれても、両者が具体的にどのように違うのかイメージがつかない方も多いでしょう。
そこで、NFTの作成からNFTの譲渡までの過程を見ながら、両者の違いを見ていきたいと思います。
- STEP 1: 対象コンテンツの作成
以前のnote↑で登場したコメダさんは、note中で自身の栽培するブランド米『めちゃう米』のロゴのイラストを作成していました。
コメダさんは、このイラストの「著作者」ですので、このイラストに係る著作権を有しています(著作権法17条1項)。
コメダさんはこのイラストをとても気に入っており、単にお米のパッケージに使用するだけではもったいないと思っていました。
- STEP 2: NFTの発行
そんな折、コメダさんは、ニュースでNFTアートのことを知りました。
「これは『めちゃう米』ロゴのイラストをアートとして楽しんでもらうのにうってつけだ」と考えたコメダさん、早速このイラストをNFT化して販売することにしました。
調べてみると、対象コンテンツのNFTを販売するためには、まずはNFTマーケットプレイス(Amazonや楽天市場のNFTアート版のようなもの)の専用のデータ置き場(NFTマーケットプレイスが自前で用意したサーバ or「IPFS」というP2P型の分散ストレージ)に対象コンテンツのデジタルデータをアップロードする必要があるようです。
そこで、コメダさんは、「NFT市場」というNFTマーケットプレイスを利用することとし、専用のデータ置き場に『めちゃう米』ロゴのイラストのデジタルデータをアップロードしました。
これにより、『めちゃう米』ロゴのイラストのNFTが発行され、ブロックチェーン上に記録されました。
上図のとおり、NFTには、当該NFTのIDの他、当該NFTの持ち主、対象コンテンツのデータの保存場所に関する情報などが記録されています。
かくして、『めちゃう米』NFTがNFT市場に出品されました。
- STEP 3: NFTの購入
それからしばらく経ち、ブランド米『めちゃう米』のファンである稲田さんは、『めちゃう米』NFTが出品されているのを発見しました。
稲田さんは、『めちゃう米』ファンとしては見逃せないと、このNFTを購入しました。
上図の黄色文字部分のように、稲田さんの購入により、『めちゃう米』NFTに記録された情報が書き換わり、このNFTを稲田さんがコメダさんから購入し、稲田さんが持ち主になったことがブロックチェーン上に記録されました。
■ なぜ「NFTとアートは別物」を抑えておく必要があるのか
さて、ここまでで、NFTアートと著作権の関係を考える上で抑えておきたいポイントが「NFTとアートは別物」であることと、両者がどのように区別されるのかを見てきました。
それでは、著作権問題を考える上で、なぜ「NFTとアートは別物」であることを抑えておく必要があるのでしょうか。言い換えれば、「NFTとアートは別物」であることから何が導かれるのでしょうか。
- NFTを購入しても対象コンテンツを自由に利用できるわけではない
前述のとおり、NFTを購入すると、当該NFTの持ち主や取引履歴に関する情報が書き換わります。
他方、対象コンテンツを自由に利用するためには、対象コンテンツに係る著作権(or ライセンス)が必要です。しかし、上記のようにNFTの情報が書き換わったからといって、著作権等の対象コンテンツをめぐる権利関係は当然には変動しません。
したがって、「NFTとアートは別物」というポイントから、NFTを購入しても、それ自体で当然には対象コンテンツを自由に利用(複製等)できるようになるわけではないことが導かれることになるわけです。
- じゃあNFTを購入するとどうなるの?
それでは、NFTの購入者は、対象コンテンツにつきどのような利益を得ることができるのでしょうか。
前述のとおり、NFTの出品・購入はNFTマーケットプレイスのサービスを通じて行われます。そして、NFTマーケットプレイスにも、他のウェブサービスと同様に「利用規約」があります。
そのため、NFTを購入することで購入者が対象コンテンツをどのように利用できるようになるかは、取引が行われたNFTマーケットプレイスの利用規約の内容に従うことになります。つまり、購入者は、利用規約に「購入者は対象コンテンツをこのように使えます」という記載がある場合に、その記載の範囲で対象コンテンツを利用することができるにすぎないのです。
- NFT Studioを具体例に
それでは、国内のNFTマーケットプレイスである「NFT Studio」を題材に、具体的なケースを検討してみましょう。
本来的にはNFT Studioの利用規約を確認すべきですが、あまりやる気がないときに利用規約を読むことは骨が折れます。そこで、今回はNFT Studioが情報発信に利用しているnoteを確認してみます。
まず、こちらのnoteには、「Q1. 購入すると、どうなるの?」との問いに対して、「購入者として名前を残すことができる」との回答が記載されています。
こちらの記載は、「NFTを購入すると、当該NFTの持ち主や取引履歴に関する情報が書き換わり、当該NFTの持ち主が購入者であることがブロックチェーン記録される」ことを意味するものと考えられます。つまり、この記載は、NFTに関するもので、対象コンテンツに関するものではないということですね。
それでは、NFT Studioにおいて対象コンテンツはどのように取り扱われているのでしょうか。
こちらのnoteの「▼商用権」パートの記載をまとめると、対象コンテンツの著作権はクリエイターに単独帰属すること(購入者に移転しないこと)、購入者は対象コンテンツを商用利用(個人で楽しむ範囲を超えて利用)することができないことがそれぞれ記載されていると整理できます。
そのため、NFT Studioでは、購入者は、私的使用(著作権法30条1項)やその他法令上許された利用行為に該当しない限り、対象コンテンツを利用することができないということになります。その意味では、NFT Studioにおける購入者は、対象コンテンツにつき特別な権利利益を有していない(コレクターとして個人的に楽しむ)といえるでしょう。
(※ 利用規約で確認したい方は16条2項3項をご参照ください)
なお、以上はあくまでもNFT Studioでの話であり、NFTの購入者が対象コンテンツをどのように利用できるかは、NFTマーケットプレイスによって取り扱いが異なります。
今後もしNFTアートを購入する機会があれば、是非利用するNFTマーケットプレイスの利用規約等を確認してみましょう。
■ おわりに
あまりやる気がなくても読める記事をお求めの方にも向けたはずの本noteですが、書いてみたらそれなりに長くなってしまいました。
ただ、その分、本noteを最後まで読んでくださった方々は、冒頭リンク先の各記事を読んでも十分に内容を理解できる基礎知識が身についたはずです。「もっと他の論点も勉強してみたい」という方は、是非各記事も読んでみてください。
また、書籍でもNFTアートの勉強をしてみたいという方は、以下の2冊もおすすめです(『NFTの教科書』は参考書寄り、『美術手帖』は読み物寄りといったイメージで、それぞれ違う良さがあります)。
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