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求人広告に景品表示法は適用されるのか?

我々が普段見聞きする「広告」と呼ばれるものには様々な種類がありますが、そのうちの1つとして「求人広告」があります。
求人広告も「広告」である以上、景品表示法上の優良誤認表示(5条1号)又は有利誤認表示(同条2号)となることはあるのでしょうか?

本noteでは、前提として「求人広告」の種類を整理した上で、それぞれに対する景品表示法の適用可能性を検討します。


1 「求人広告」の多義性?

一般に、「求人広告」とは、会社等が新たな従業員を募集するための広告をいいます。ただ、そのような広告以外にも、どうやら就職支援などの求人関連サービスの広告についても、その内容によっては「求人広告」と呼ばれることもないではないようです。
後者の用法の是非はさておき、上記を踏まえると、「求人広告」と呼ばれる(可能性のある)ものには、大別して以下の2種類があると整理できます。

① 雇用契約そのものに関する広告(狭義の求人広告?)
② 求人関連サービスに関する広告(広義の求人広告?)

そこで、以下、上記①及び②のそれぞれの求人広告について、景品表示法の適用の有無を見ていきましょう。

2 ①雇用契約そのものに関する広告

(1)景品表示法上の「表示」

意外と見落としがちですが、景品表示法及びいわゆる定義告示(=景品表示法における「景品類」と「表示」の定義を示した告示)は、「表示」という用語の定義を以下のとおり定めています。

■ 景品表示法2条4項
この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。

定義告示・第2項
法第2条第4項に規定する表示とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、 次に掲げるものをいう。
一~五 略

また、5条柱書が禁止しているのも、以下のとおり事業者による「自己の供給する商品又は役務の取引」についての不当表示行為です。

■ 景品表示法5条
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一~三 略

1号は優良誤認表示、2号は有利誤認表示、3号は指定告示に係る不当表示。

ここで、注目したいのは「自己の供給する商品又は役務の取引」という要件です。
つまり、景品表示法による表示規制が適用される「表示」に該当する又は5条柱書の要件を満たすためには、少なくとも、その広告が、自己の供給する商品又は役務の取引に関する事項について行われるものであること(以下「供給要件」)が必要になります。

(2)供給要件

それでは、①雇用契約そのものに関する広告は、この供給要件を満たすでしょうか?

雇用契約は、使用者と労働者との間で締結される契約であり、使用者の指揮監督下において労働者が労務を提供し、それに対して使用者が賃金を支払うものです。このように、雇用契約では、「自己」すなわち使用者が何らかの商品又は役務(サービス)を供給するという関係性はありません
そのため、上記①の求人広告は、供給要件を充足しないこととなり、ゆえに景品表示法上の「表示」には該当せず、また5条柱書の要件を充足しません。

そうである以上、上記①の求人広告は、景品表示法の適用を受けないこととなります。

(3)消費者庁の見解

これに関連して、消費者庁は、「景品に関するQ&A」のQ8で以下のとおりの見解を公表しています。

Q8:当社は採用した従業員にお祝い金を提供しています。そのことを求人広告に掲載したいのですが、景品規制は適用されるのでしょうか。

A:雇用契約は、「自己の供給する商品又は役務の取引」には該当しません。したがって、採用した従業員へのお祝い金の提供に、景品規制は適用されません。

少し説明すると、定義告示は「景品類」を以下のとおり定義しています。

定義告示・第1項
不当景品類及び不当表示防止法(以下「法」という。)第2条第3項に規定する景品類とは、顧客を誘引するための手段として、方法のいかんを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、次に掲げるものをいう。ただし,……。
一~三 略

上記Q&Aは、雇用契約が「景品類」の定義中の「自己の供給する商品又は役務の取引」に該当しないことを説明したものです。つまり、上記Q&Aは、直接的には景品規制に関するものであり、表示規制に関するものではありません。

しかし、同じ法律内の同じ文言については同一に解釈するのが通常である以上、上記Q&Aの見解は「表示」の定義中及び5条柱書の「自己の供給する商品又は役務の取引」という文言の解釈にもあてはまります

したがって、上記消費者庁の見解に照らしても、やはり上記①の求人広告は、供給要件を満たさないため、「表示」に該当せず、また5条柱書の要件を充足せず、景品表示法の適用対象とはならないことになります。

■「顧客を誘引するための手段」か? / 「一般消費者」の誤認はあるか?
「表示」の定義中の「顧客を誘引するための手段」にいう「顧客」は一般消費者を意味すると考えられており(古川昌平『エッセンス景品表示法』(商事法務、2018年)32頁参照)、また、同法上の不当表示はいずれも「一般消費者」を誤認させることを要件としています(5条)。
そのため、求人広告については「求職者は『顧客』又は『一般消費者』なのか?」という観点もあり得ます。確かに、求職の場面はモノやサービスを売り買いするような通常の消費生活の場面とは異なるため、求職者は「顧客」及び「一般消費者」には該当しないと考えることもできるかもしれません。一方で、だからといって求職者は「事業者」(2条1項)ではありません。
この点については考え方が分かれるかもしれませんが、求職者という属性から判断して「顧客」及び「一般消費者」該当性を否定するのではなく、供給要件を欠くと考えた方が、後述の措置命令と整合的に理解しやすいように思います。

3 ②求人関連サービスに関する広告

(1)求職関連サービス?

さて、次は②求人関連サービスに関する広告について見ていきましょう。

前提として、漠然と「求職関連サービス」と言われてもあまりイメージが湧かないと思いますので、本noteでは「サービスを受ける者が会社等との間で雇用契約を締結できるよう支援するサービス」を「求職関連サービス」と定義します。
具体的には、転職エージェントや就活イベントの提供がこれに該当します。

(2)供給要件

前述のとおり、雇用契約そのものは供給要件を満たさないため、上記①の求人広告は景品表示法の適用対象外でした。

これに対して、求職関連サービスでは、サービス提供者は転職エージェントや就活イベントなどのサービス、つまり「役務」をサービス受領者に対して「供給」しているという関係にあります
そのため、求職関連サービスは、サービス提供者にとって「自己の供給する……役務の取引」であり、供給要件を充足します

以上から、上記②の求人広告は、「表示」に該当し、また5条柱書の要件を満たすため、景品表示法が適用されることになります。

(3)株式会社DYMに対する措置命令

実際、株式会社DYMに対する措置命令(2022年4月27日)では、まさに転職エージェントと就活イベントに関する優良誤認表示が認定されました。

このように、上記②の求人広告に関しては、実際に措置命令が行われた事例があります。

なお、上記措置命令で問題となった転職エージェントと就活イベントそれ自体は、求職者との関係ではいずれも無償でした。そのため、この事例は「取引」(有償の取引を指すと解されている)該当性の観点からも興味深い事例となっていますが、本noteではご紹介まで。

4 おわりに

ここまで見てきたように、求人広告に対する景品表示法の適用の有無については、その「求人広告」が上記①と②のいずれなのかを区別して考える必要があり、その上で、上記①であれば適用外、上記②であれば適用対象と考えられます。

もっとも、表示規制が定められているのは景品表示法だけではなく、例えば、職業安定法では、求人情報等に係る虚偽表示又は誤解を生じさせる表示が禁止されています(同法5条の4・同施行規則4条の3)。
そのため、当然ながら「上記①の求人広告には景品表示法が適用されないから嘘つき放題・盛り放題だ!」とはならない点にはご注意ください。

※ 過去の景品表示法違反の事例をもっと見てみたい方は、以下のデータベースもご活用ください(宣伝)。


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