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トライアスロンに初参戦したForbes起業家の感想「海とプールは違う」

(今回のnoteはフィクションです。真に受けずに物語としてお読みください。ちなみに読んでもイチミリも役に立ちません。)

4月25日、広島は廿日市で開かれたトライアスロンの大会に、Nateeの執行役員であり共同創業者の朝戸(以下ダイスケ)と参加してきた。

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本当はこういうかっこいいnoteを書きたかった、、、。しかし、現実は甘くない。なぜならスイムでリタイアしたからだ。恥ずかしい。お母さんにおへそ向けて寝れない。でも生きてかえってこれてよかった。まずは生還を喜びたい。

俺はやることはやってきた。元々泳ぐのはすごく苦手で、クロールは25mが限界。高校の時の海浜教室という2キロくらい遠泳する行事でもABCDEの中でDで、遠泳すらさせてもらえなかった組だ。俺が当時仲よかった連中はほとんどがAかBだった。Dはいわゆる文化系の人が多かったように思う。

でもパーソナルを2回くらいお願いしたり、週に1-2回泳ぐことで、今回のトライアスロンの1,500mはクロールで余裕で泳げるようになった。いつも通り「なんだ、やればできるじゃん!」と思っていたのだ。

1週間前にジムで60%走(スイム、バイク、ランをすべて60%の距離で通すこと)をした時も単純に100%にした場合に3時間を切れる計算だった。はじめての大会なら悪くないペースだと思う。

制限時間は4時間なので、さすがにトラブルがあっても完走は余裕だと思っていた。それがなぜか結果はDNF。ちなみにDNFとはDo Not Finishというトライアスロン用語で、リタイアの人間が恥ずかしくならないようにDNFと表記してると小島は解釈している。うん、今の俺にはわかるぞ。

当日のことを振り返ってみよう。競技は9時からなので、朝5時半に起き、用意していたおにぎりを二つほおばる。6時過ぎにはホテルを出て、広島駅から廿日市駅へ電車で向かった。

廿日市駅から会場まで歩くとそこそこ時間がかかるので、ダイスケと二人でタクシーに乗ろうとしたら、ヒョロヒョロな35-40歳くらいのおじさんが「僕もいいですか?」と同乗してきた。

お「今回トライアスロンの大会はじめてなんですよ〜」
自「えー、僕らもですよ!」
お「そうなんですか!?すごいできそうな方に見えたけど安心しましたw」
自「いやいや、海で泳いだことすらないんですw」
お「え?本当ですか!?へぇ、、すごいですね」
自「まあなんとか完走だけが目標ですww」

みたいな他愛もない初心者の会話をした。もしかしたらはじめての人も結構多いのかな?なんて若干安心もしながら、会場に着いた。

そこからは大会の慌ただしさや多少のトラブルも起こりつつ、順調に準備を進めていった。正直、余裕モードだった。

試泳の時間で気づいた今世紀最大の気づき

競技の開始1時間前くらいにはウォーミングアップのための試泳の時間がある。海水に慣れたり、心拍数を上げることが目的なのだが、いかんせん初心者の我々は「いや、今泳いだら疲れるだけじゃない?」とか言って試泳するつもりはなかった。

でもまぁ一旦海にだけ入ってみるか、と思って試泳終了時間の直前にあくまで水に慣れるという意味で海にドボンと飛び込んだのだ。これが悲劇の始まりだった。

今でも思い出すと笑ってしまう。意気揚々とトライアスロンに参戦したナメてる若者が、海に入った途端にクロールのひとかきもできずに平泳ぎしてるのだ。いや、むしろおへそを空中に向けて仰向けになっているではないか!

周りの監視員からしたらさぞ滑稽に映っただろう。滑稽というか、飛び込んだ瞬間足をつったのか、なにかトラブルが起こったと思ったに違いない。だって、海で泳げないやつなんてこの大会にはいないはずなんだから。

まず顔をつけるのが怖い。海といっても透き通っているわけでもないし、ゴーグルをつけていても下を向くと視界は一面の緑に包まれる。想像してみてほしい。クロールは下に顔をつけ、横を向いて息継ぎをする。

緑!ぷはぁ!藻!ぷはぁ!なにも!ぷはぁ!見えない!ぷはぁがばぁっごっくんf***(息継ぎの最中に波で海水を飲み込む様を表現した)

要するにこういう状況だ。試泳の時間は泳ぎ方も何もわからないまま一瞬で終わり、ダイスケと「おい、これやばくないかw」「やばい、これは全然違う競技w」「マジ、どうするよこれwww」みたいに笑いながらも、内心二人ともはじめて「死」を意識したのではないか。

不安を抱えながらも、実際の競技開始まで何度も息継ぎのイメージトレーニングをした。要するに海に慣れていなかっただけだから、練習通りに泳げば問題ないはず。だって元々1,500mは余裕で泳げるわけだし、波はそんなにないし、ウェットスーツだって着てるし、何より今日は750mだけでいい(海水の温度が低いため、スイムは半分の距離にすると事前に通達されていた)。

さっきはテンパってしまっただけで、絶対にイケると信じきっていた。周りに合わせない、タイムは追わずに完泳だけをゴールとする、最後はいのちをだいじに、という三つの方針を決め、競技開始の時間を迎えた。

スタートしてすぐに、さっきやっていたイメージトレーニングもプールで過ごした日々もすべて記憶からなくなった。もうこうなったら、息継ぎは諦めよう。ヘッズアップしながらクロールだ!!!

クロールなのか溺れているのかよくわからない泳法でしばらく泳ぐと、目標のブイが近づいてきた。しかも、前の選手ともそこまで離されてないので、やっぱりこれはイケるなと思った。

でもしばらく泳いでいるとみぞおちに何かが込み上げてくる。息が苦しい。プールで泳いでいる時は、ただ腕が疲れるだけで息が苦しいとかそんなことは一切なかった。なんだこれ?聞いてないぞ。

そんなことを思いながら、目標のブイ(往復で750mの距離だったので片道375m)がすぐ近くまで来た時、周りに待機しているライフセーバーの方から「大丈夫ですかー?」と声をかけられた。お前らは俺が溺れているように見えるのか?バカ言っちゃいけねぇ。頭を海につけてないだけで、これだってれっきとしたクロールだ。まあ、ちょっとした変化形だ。そんなことを考えながら「大丈夫です!」と心配されないように元気よく答えた。

ただ、実際のところ大会前に補給したゼリーを吐きそうになっていた。1時間以上前に飲んだはずのグレープ味を何度も口で味わいながら(いま食事中の人がいたら申し訳ない)、それでも小島領剣は必死に海と、己と戦っていた。

「大会は今日だけじゃないですよ?」
「このまま完泳できてもバイクで意識失ったりしたら大怪我になっちゃいますよ?」
「何かあってからでは遅いですよ?」

などとライフセーバーの悪魔の囁きが近くでずっと繰り返される。彼らのKPIは「事故ゼロ」なんだ。こんな溺れてるのか何なのかわからない練習の足りないふざけた参加者なんてリタイアさせてしかるべしなのだ。ライフセーバーは命を救うのであって、リタイアによって傷つくアラサー経営者の自尊心は救ってくれないのだ。

俺はあっさりと負けた。吐き気もそこそこ限界に近かったのは事実で、ずっとライフセーバーにリタイアを促されながらも岸まで泳ぎきる自信がなかった。ボートに捕まって岸まで戻り、医療班の救護を受けることとなった。なんと情けないことか。

結局朝タクシーに乗ったトライアスロン初出場3人のうち2人はリタイア、ダイスケは唯一完走したが、ビリという結果になった。

余談だが、ダイスケは事前評判では俺より圧倒的に泳げてなかった、というかマジでこのまま大会に出て大丈夫なのか?というレベルで泳げなかった。大会1週間前にクロールをパーソナルで教わるレベルだった。

しかし彼は悪魔の囁きを続けるライフセーバーにいじめのように囲まれながらも絶対に諦めず、クロールと平泳ぎを組み合わせる独特の泳法で完泳し、思わず会場が湧いた。スイム制限時間の1分前だった。

これが東大に受かった人間と、東大に落ちた人間の差なのか?とコミットメント(意志力)の差を実感するとともに、ダイスケと一緒に事業をやれてよかったと尊敬した。彼の記事が最近Wantedlyに上がったので、ぜひ読んでみてほしい。

リタイア後の自己肯定感を探して...

リタイアしてしまったらやることがないので、着替えてゴール会場でダイスケを待っていたのだが、60代前後の方や明らかに太っている人(ピチピチのウェアからはっきりと視認できる三段腹!)なども続々とゴールしてきた。なぜ、俺はここにいて、彼らはゴールしてるんだ?理解ができなかった。

久しぶりに劣等感に苛まれた。小学校六年生の時に俺だけ分数の割り算ができなくて悔しかった時以来の劣等感だ。

読んだ。俺は読みふけった。検索ワードは「トライアスロン スイム リタイア」だ。人間は劣等感が強くなると、下を見るようにできている。自分は最下層じゃない、もしくは自分と同じ境遇のやつはこんなにいる!と言って安心するようにプログラムされているんだ。

ほら、こんなにいるじゃないか!スイムでDNFが!

DNFというのかい?贅沢な名前だねぇ。今からお前の名前は「へたれ」だ。いいかい、「へたれ」だよ。分かったら返事をするんだ、「へたれ」!

なんて、DNFとかおしゃれな言葉を使ってるとゆばおば様に怒られそう。

一通り同志がいることに安心したあとは、下がった自己肯定感がぶち上がるようなマウントの取れる場所が必要だった。

何か、俺がマウントできる、自己肯定感がぶち上がるような、トピックは、何かないのか?

求めよ、そうすれば、与えられるだろう。捜せ、そうすれば見だすであろう。門を叩け、そうすれば、あけてもらえるだろう。(マタイによる福音書7章7節)

あった、俺はForbes起業家だ。Forbesが選ぶアジアのU-30に選ばれたのだ。留学をした時の友人などからも祝福のコメントをもらったんだ。今をときめくイケてる起業家として、この恥ずかしい経験を昇華するしかない。そんな中で出てきたのが「プールと海は違う」というマウントだった。こういう話だ。

「君さ、起業したいとか、メガベンチャーで新規事業やってますとか、戦略もっとこうした方がいいんじゃないですか?とかね、全部温水プールの話だからねそれ。早く海で勝負してみなよ。ぬるま湯と冷たい荒波の違いってすごいから。経験もしてないのに偉そうに起業語るのやめなよ。ぬるま湯の中で泳げてたって、広い海の前では無力なんだよ、無力!」

こういうエピソードに昇華しよう、そう思った。だって、意気揚々と「トライアスロン出るんで!」と周囲に言っていた手前、スイムでリタイアなんて恥ずかしすぎる。どうにかして、自分のフィールドにこの話を持ってこないといけないんだ。

「そう言えばこの前のトライアスロンの大会どうだったんですか?」なんて聞かれたらこう返してやるのだ。

「あー結果はスイムでリタイアだったよ。うん、海で泳ぐの初めてだったんだけど、プールと違いすぎたね。プールでは1,500m余裕だったんだけど、海は波もあるし冷たいしウェットスーツも着てるし。それでね、やっぱり起業もそうだなって思ったのよ。起業してないでわかったような口効く人はやんやと偉そうに語るけど、起業した人からするとさ、それって温水プールなわけよ。荒波に出てから言えよなぁって、まったく同じだと思ったんだよねー」

と説明をして、劣等感が刺激されるトライアスロンのリタイアの話から、マウンティングにより優越感がブーストされる「挑戦する起業家」というトピックにすげ替える、高等テクニックなのだ。どうだ、Forbes起業家の実力に驚いただろうか。

そして俺は決めた。小学校六年生の時に味わった以来のこの屈辱をいかにして晴らすか。いかにして忘れないか。腕に今回のレースナンバーを刻み込むことにした。ヘタレ番号198だ。スマホの壁紙にする徹底ぶりで、これにはカノッサもびっくりだ。

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起業マウンティングによって多少は回復した自尊心も、やっぱり完全に戻るわけじゃない。「トライアスロンの劣等感はトライアスロンでしか解決しない」と言うじゃないか。そう思って俺はまた次の大会にエントリーするのだった。

Goodbye 俺の劣等感。Go For 俺の自尊心。


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