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お散歩シリーズ第3話「蛇の道編 - 信じ抜く勇気」

保坂耕司のお散歩シリーズもシリーズ3話目を迎えています。
闇夜を切り裂く2人の影。
兄の保坂学といく保坂兄弟列伝は人々の心にも足跡を残す。
世田谷区から目黒区にかけて抜ける緑道で巻き起こるドラマ。
2人の散歩から何が照らし出されるのか。
その姿はアナタの心を映し出す鏡なのかもしれない。

お散歩ーズ ハイ

前回からさらに蛇崩川緑道を奥へ進んでいった。
保坂学も少し疲れが見え始めているようだ。
保坂耕司は思ったよりも呼吸も乱れておらず疲れもみえていないようだ。
しかしそれは「お散歩ーズ ハイ」によるまやかしだったのだ。
学「耕司、少しペースを落とそう」
耕司「もう疲れたの?まだまだ行くよ!」
耕司は学の意見に耳を貸そうとせずにお散歩ペースを保ち続けていた。
しかし、同じような景色がずっと続く緑道では危険な行為だったのだ。
自分がいる位置と時間が曖昧になっていくのだ。
しかも耕司はお散歩に集中するあまり自分自身を見誤っている。
学は冷静に耕司の表情をみていた。

お散歩中に巻き起こる兄弟喧嘩

前回は呼吸が乱れ足並みが揃わない、魔物が潜んでいる事に気がついた2人だったが、常にその魔物は影から2人を覗き込んでいた。
「深淵を覗く者は深淵からも覗かれている」
2人は意図せずにお散歩の魔物を覗き込んでいた。
お散歩の魔物は耕司の心に巣食っているのだろうか。
耕司の表情はにやけ顔と言った方がいいだろう。口元が緩んだ状態で歩くペースは早く学を気にする様子もない。まっすぐ前だけを見て歩いている様子は異様だ。
そんな様子を見かねた学が言った。
「耕司、ちょっと休憩しよう!疲れたよ!」
しかし耕司は学の言葉に耳を貸そうとはしなかったのだ。そのまま歩き続ける。
「耕司!足ツッタ!」
ついに学の肉体的な限界が近づいていた。
しかし耕司はペースを緩めない。
「耕司!テメー!いい加減にろ!」と珍しく怒鳴り散らした。
耕司は我に返り、学が蹲っている事に気がついた。
耕司は気づかずに十数メートル先を歩いていた為、学の方へと駆け寄った。
差し出した耕司の手を振り払う学。
2人の間に険悪な空気が漂っていた。

本当の集中力を養うには

耕司は集中していた為、注意力が散漫になっていたのではないかと考えた。
あまりにもお散歩へのめり込んでしまった為に起きた不注意で学の異変に気がつかなかったのだと。
実際はどうだったのだるか。
学は見抜いていた。
集中力とは違い、足りてなかったのは深淵を覗くのではなく、深淵がある事を意識的に認める事だと。深淵がそこにあればつい覗きたくなる。
ある種の欲望なのかもしれない。
しかしお散歩という名の深淵を覗くという事は、むしろお散歩への集中力がかけてしまう事に他ならない。
お散歩にお散歩されては意味がない。自分の意思を持ちお散歩をしなければその価値を見誤るからだ。
一歩一歩の意味。
歩くという事。
自分と対話するという事。
モチベーションひとつで意味が変わるのだ。
それが本当の意味でのお散歩中に高める集中力といえるのかもしれない。

勇気凛々

耕司は学のひとつひとつの言葉にガツンと来た。
学のことを考えているつもりで考えられていなかったのだから。
足がつった学をみて自信を失っていた。
しかし自信を取り戻させたのは学の言葉だった。
「耕司や、お散歩に集中することは間違いじゃないぞよ。しかし囚われてはならないぞよ?解き放て!」
耕司は解き放った。
お散歩のすべてを理解するには時間がないと思っていた。
実際にそうかもしれない。
人がお散歩を始めてから長い歴史が刻まれてきた。
その全てを一晩で理解することなどできないだろう。
しかし、大事なことは信じる勇気だ。
それが自分を見失うことなく、魔物に取り込まれることもない唯一の方法だと悟った。
恐れずお散歩する勇気を持つことで一歩一歩に真の意味を持つのだと。


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