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ベトナムの政治は本当に安定しているのか 外からうかがいしれない複雑な構造

気が付くと7月も半ば、夏休みまでもう一息です。
さて、サプライチェーン再構築で、注目を集めているのがベトナムです。ベトナムは、一般的に政治が安定しているとみられており、それが魅力の一つになっています。

体制は、中国によく似ています。ベトナム共産党の一党制で、5年に一度の党大会で、党・政府の人事が決まり、民主国家のような与野党はありませんし、ドラスティックな政権交代はありません。

党と政府は明確な不分はできません(分けられない)が、事実上のトップは書記長で、党が政府の上位となります。中国は書記長と国家主席が兼務ですが、ベトナムは一時的に兼務がありましたが、基本的に分離しています。

他方で、細長い国土から、地理的に北部・中部・南部に分けることができ、北が南を飲み込んだ歴史的な経緯もあって、トップの書記長は、北部または中部出身でこれまで占められてきましたが、基本的に4柱といわれる、党書記長、国家主席、首相、国家議長のポストを南北中で分け合って、地域間のバランスをとってきました。

しかしながら、2021年の党大会で、南部出身者はポストを完全に失います。これは、その5年前の2016年の党大会で南部出身で改革派とされたグエン・タン・ズン元首相が、北部出身のグエン・フー・チョン書記長との権力闘争に敗れた結果の余波が続いているとの見方が濃厚です。


それでも、中部出身で改革派とされるグエン・スアン・フック前首相が、国家主席になり、北部出身(北部寄りの中部のため中部出身とされることもある)で改革派とされるファム・ミン・チン首相が登用されたことで、保守派台頭の懸念はある程度相殺されてきました。

しかしながら、先月6月、中部出身の実業家が主導したとされる新型コロナ検査キットの不正問題が浮上します。そこには、中部出身の4柱の関与が疑われましたが、結局、監督問題に飛び火し、保健相とハノイ市長が逮捕されてしまいます。

事の深層はわかりませんが、保守派による改革派への圧力が続いているという見方も一部にはあるようです。

伝統的に、保守派は中国との関係が深いとされ、改革派は日米欧などとの関係強化に熱心というのが一般的な評価です。ベトナムの場合は、党外交と政府外交で分担して保守派と改革派はそれぞれに近い国・地域とのミッションを行って、米中の圧力を強かに和らげているという見方もできますが、保守派と改革派の確執はやはり根深いものはありそうです。

このように、ベトナム政治は水面下での権力闘争が、時に露呈し、その背景には、保守派と改革派、さらには南北中問題が横たわっています。地域では南部が最も豊かで、北部が急速にキャッチアップするも、中部が発展からやや取り残されており、梃入れが急務になっているという面もあります。

1つの国として、まとまっていることは確かですし、表立った対立はありませんが、複雑な体制の国であることは、サプライチェーン構築上、改めて認識しておく必要はありそうです。



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