経済安保、昨年度から留意すべき情勢変化を考える
昨年度は、ある意味、経済安保元年だったのかもしれません。
米国では半導体管理を厳格化するChips法、日本では経済安保法が制定され、米国主導でインド太平洋経済枠組み(IPEF)が発足、半導体を中心に、機微(センシティブ)分野で、米中摩擦が先鋭化しました。
今年度は、経済安保2年といえるでしょうが、果たして、昨年度と比べて何か変わったのか、それとも、そうでもないのか?
もしかしたら、思考停止状態で、1年経過してしまったのか?
ここで、少々強引なのは承知で、整理してみたいと思います。
1.ウクライナ情勢の長期化の重石
まずは、ウクライナ情勢の長期化がかなり大きな変化といえます。
この結果、例えば、小麦や肥料ななど、ウクライナとロシアが世界の大生産地になっている食料・製品や、資源・コモディティに関して、調達経路の単線化から複線化が必須になっています。
一見、経済安保と無縁の農水産品も、肥料の調達先をカナダに求めるなど、経済安保とエネルギー安保、食料安保が、日常化かつ重層化しており、油断できない状況が続いていることを、まずは認識しておく必要がありそうです。
2.法制度の運用開始
前述した米国ではChips法、日本では経済安保法の運用が始まっており、とうとう、厳格に管理される場面が出てきた点には変化があります。
法律制定から即座に運用されるわけではなく、ある程度の試用期間を経て運用されますが、運用の年になったといえます。
機微分野に該当する産業・企業にとっては、ある意味グレーだった部分の白黒が明らかになっていくことになります。黒がはっきりしてルールがクリアになるという面はありそうですが、その当局の判断の裏側には、該当産業・企業が戦々恐々とする日々が続くことにはなります。
3.両岸関係への懸念高まる
両岸関係については、2024年1月に台湾で総統選が予定されていることもあり、昨年度よりも世界の耳目がより一層高まることが筆致です。
危機は拡大解釈が可能で、圧力を感じさせる船舶が、特定海域から動かない・・・そのような両岸関係波高しの圧力が、経済安保の重石となりますし、メディアが騒がしくなることの影響は、決して軽くはありません。
4.グローバルサウスの台頭
個人的には、グローバルサウスという言葉は、これまでの、新興国やBRICSとどう違うのか?という感じはありますが、昨年度はまだマイナーな言葉でした。
この背景には、米中、さらに、米欧日と中ロの狭間で、どちらにもつかない・・・そのようなインドやASEANに代表される新興国群がグローバルサウスとして発言力を発揮していることが背景にあることは周知の通りです。
また、その分断の中で、米中双方から投資、支援を引き出そうという、新興国の思惑も垣間見られ、ASEANなどではその姿勢は顕著です。
このグローバルサウスを、サプライチェーン上の位置づけとしてどう捉えるか?思考停止が許されないなかで、苦悩の日々が続くことになります。
5.産業政策の復活
分断の中で、サプライチェーンを強靭化しようという動きは、国・地域が巨額の補助金で、有力企業を誘致する事態を復活させています。米欧日は、長らくこの姿勢を弱め、中国だけが維持してきた様相でしたが、中国のある程度の成功で、米欧日も先祖返りで中国式になびいた感もあります。
https://note.com/koji_sako/n/n385aea147b7a
6.EVを巡る競争激化
最後に、どうやら半導体から、EVに経済安保の最前線が拡大した感が強いのも今年度の特徴でしょう。そんな気配が、表面的にはモーターショーからも感じられますが、
水面下では、レアアースを巡る攻防が激しさを増していることは周知の通りで、レアアース輸出規制、囲い込みは、既視感が強いことは周知の通りです。とうとう、半導体から自動車に来たか・・・さらに、ニッケルなどEVの戦略物資を囲い込みたいインドネシアなどの思惑もからみ、サプライチェーン全体に波紋が広がっています。
いずれも、昨年度から、大きな変化があった訳ではなく、より、具体化、先鋭化したのが今年度といえそうですが、予想外の方向に進んでいるのは、グローバルサウスの台頭かもしれません。
それでは、企業としてどのような対応ができるのか、何を突破口に思考を前進させられるのか、これからも、不定期にはなりますが、考えてみたいと思います。
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