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タイとベトナムの競合、勝者はどちらなのか?

先週、東京で講演させていただく機会がありました。NNAさんの主催で司会をThe Daily NNAタイ編集部編集長の小堀栄之氏が務められ、タイ政治を、元大阪外国語大学の学長を務められた赤木攻先生、アジア経済を小職がお話させていただきました。

東京の会場には40名、オンラインでは400名の方の申し込みがあり、アジア駐在の必須アイテムであるNNA主催とあって、多くの駐在員の方にもご参加いただきました。この場を借りて、厚く御礼申します。

小職の内容のエッセンスは、こちらの通りです。

タイ政治研究の第一任者である赤木先生からは、ちょうと日本の明治維新の時期にあたる時期のタイの国王だった、ラーマ5世が名君であったことが、現在のタイの繫栄の基盤になっていることや、もともと対外軍事を担ってきた軍は、タイ社会・経済の隅々の分野に進出して、いわば財閥となっており、大変な力を持っていることなどが示されました。

現在のタイの政治は、保守派がまだ強いことが示された形ですが、市民の意識は成熟しつつあり、10年経てば、一定程度民主化が進むのではないかとおっしゃっていました。

参加者の方は、やはり、変調が伝えられるベトナム経済への関心が高く、他方で、米国とベトナムの関係強化が、タイに何らかの不利益をもたらさないか、危惧もありました。

アジアへの造詣が深い小堀編集長と小職とのQAを紹介すると、このような感じでした。

Q  タイの新政権はこれからバラマキ的な政策を実行に移し、一時的な景気浮揚に資する可能性が高いとのことですが、中長期的に見ると、財政に傷をつけ、将来の成長の芽を摘んでしまう可能性はありますでしょうか。

A ひとまず、選挙のガス抜き、物価高への市民の不満の吸収、それを新政権が優先課題。他方で、家計債務が大きく、貯蓄に回らないようにデジタルウオレットで消費喚起は評価できると考えています。

財政は、2016年に相続税、2020年に固定資産税を導入など、基盤は強化されていますので、格付けに跳ねることは現時点では考えにくいように思います。

Q 今月に入ってベトナムが米国との外交関係を引き上げましたが、今回の決定がベトナムに半導体産業を誘致する起爆剤になりうるのでしょうか。

A ベトナムは、米国の同盟国なのか?私は、疑義を持っており、YESとは言い切れないと考えています。

ただし、半導体後工程における中国の依存度を下げるという視座では、半導体の後工程の代替地では、ベトナムが注目されているのは事実でしょうし、米国が複数国の中で、ベトナムに着目しているのでは事実でしょう。

他方で、前工程が、ベトナムに投資されるのは、電力、超純水、そして高度人材も必要であり、韓国勢、台湾勢の動きがカギを握ってきそうですが、そのハードルはまだまだ高いとはみております。

Q 日系企業にとっては、東南アジアの地域統括拠点をタイ(バンコク)に置くメリットは大きく、シンガポールから移管しているという話も聞きます。この点について、日系企業にとってタイに地域統括拠点を置くメリットとデメリットを教えてください。

A  実際、製造業では、タイを統括とされているケースはありますし、メディアの方も、アジア総局をタイに置かれている印象があります。
   シンガポールでは高コストなので、ASEANや周辺国から従業員を集めた研修、地域横断的な研究開発など、実際、タイには優位性があるのは間違いないでしょう。過去70年間、ジェット機の巡航速度は変わっていないといわれており、これから25年も変わりそうもありません。やはり、この物理的な距離を鑑みると、統括拠点は必要で、シンガポールには金融高度人材がいるのは確かですが、コスト面からタイシフトはじわりと続くとみます。
   新たにインドの中で、インド統括を設ける動きもあると聞きますが、ひとまずインドも含めて考えていく時代になると、タイの優勢性が活きる要素はありそうです。

Q アセアンのなかで分業体制を築くことにはメリットがある、とのことで、EVの分野で車体などはタイ、電池はインドネシアという分業は現実味があると思われますか。

A  ミクロ経済学には生産可能性曲線という考え方があり、無人島で、ヤシの実を取るのが得意な人、さかなを取るのが得意な人がいれば、できるだけ得意な方を伸ばした方が、総量でたくさん収穫できるという考え方です。つまり、ASEANは、一つの島のように、FTAで市場統合されていれば、EVの時代になっても、適材適所生産は続くとみます。
  他方で、地域保護主義の台頭で、一つの島のようにならなければ、分業は見直しが必要になることになります。

日本からの目線だと、ベトナム経済の変調が気になりますが、タイからの目線だと、それでも、ベトナムは外交面で得点を稼いで、タイを凌駕しつつあるように見える様子がうかがえると思います。

さらに、タイを歴史の目で見ると名君の存在で、日本でいう明治維新のタイミングを乗り越えたことが、植民地化を防ぎ、軍は、単なる軍隊ではなくて、いわば保守派の財閥、そして、ひとまず選挙前に、政敵を潰してしまう国もあるなかで、選挙までは民主的に実施、そこから先が保守派と改革派で前進できず、そういう様子もうかがえると思います。

なお、赤木先生は、私よりも2周り上の研究者としては超大物の大先輩ですが、大変お元気で、久しぶりに、「君若いねえ!」と言われましたが、先生のように長く社会貢献できるように精進したいと感じた次第です。


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