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今年度の通商白書が刊行されました。

https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230627008/20230627008-1.pdf

これを読み込んでいる方はどれくらいいるのかは存じませんが、私は、教材として活用させていただいており、読み込めば読み込むほど、深みがあると感じています。

白書のとりまとめ作業には、経済産業省の方はもちろん、少なからぬ民間企業からの精鋭の出向者も関わっており、参考文献の量・質からも、英知の結晶と言えるでしょう。

各紙の注目点は、概ね、地政学リスクの高まりの中で、サプライチェーンをどう維持するか、ここに帰結できるように思えます。

https://news.yahoo.co.jp/articles/622875f2ace0c32433d7699f9f1f6f1f52f45ba2

実際は、カバー範囲は広く、
世界経済の見通しから、サプライチェーンを巡る諸議論、日本の経常収支を巡る諸議論、通商政策を包括的に取り扱っています。

さらに、サプライチェーンをミクロ経済の視座でDS曲線で解説、
など、工夫がこらされているなどの部分は、大学教員としては非常に助かります。

コロナで供給が減少、需要も減少したわけですが、そうなると価格は低下します。そこへ、コロナが終息して需要は回復するも、供給はすぐには追いつかず価格が上昇、そこへウクライナ情勢が重石となって、ますます供給制約となって、価格が上昇。こいういうことになります。

価格を政策的に抑制するには、利上げによる金融引き締めで需要を抑止し(金融政策)、補助金などで設備投資を促して供給を拡大する(財政政策)ということになり、米国を筆頭とした先進国では、この教科書通りのことが行われているといえます。

しかし、そこにさらに米中対峙、G7と中ロの対峙という地政学リスクが重なると、事態は複雑になります。供給制約が大き過ぎて、サプライチェーン強靭化が求められても、国策優先順位の高い半導体などを除けば、供給量の拡大には限界があります。

グローバル化は後戻りはできないように思えますが、特定国に過度に依存するのは、いざとという時に危ないという認識は深まっているのは間違いないでしょう。

また、白書では、日本の経常収支に対して、かなり危機感がもたれている様子がうかがえます。日本の場合、資源・エネルギー価格の上昇は、致命的に交易条件を悪化させます。資源・エネルギーはドル決済、内外金利差で円安が続く中、輸入の増大は容易には解消できません。

したがって、輸出力の強化がうたわれていますが。目下、円安効果が大きく、改めて、産業全体の輸出力向上がうたわれているように感じました。

まとめると、地政学リスク顕在化の際に慌てないような調達網の確保と、海外で稼ぐ輸出競争力の強化・・・と言えるのでしょう。

その難度はかなり高く、景気回復で歳入は回復気味とはいえ、なけなしの財政でなんとか国内の供給力の拡大を図る展開が続くのかもしれませんが、企業レベルで、円安の逆風の中で調達力を磨き、円安の追い風の中で次に世界に打って出る製品・サービスを磨くのが、日本の宿命なのかもしれません。

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