概ね予想通りと言えるのでしょう。
民進党の頼清徳氏が激戦だった総統選を制しました。

これまで8年で政権交代となっていましたが、今回は、野党が候補の一本化すると一旦合意するも結局合意できず、国民党が民衆党を取り込めなかったことが、敗因でしょう。実際に台湾の大手紙、聯合報のアンケートでは80%超が、野党が統一候補に失敗したことを挙げています。

いずれにろ、今後4年間、民進党の総統の時代が続きます。
頼清徳氏は、中国が、蔡英文氏以上に、独立色が強いと警戒しているとされており、習近平党主席の任期が、ひとまず次期党大会の2027年までは続くことを鑑みるに、2024年~2027・2028年頃まで、両岸関係は、波高しの場面が続くことを織り込む必要はありそうです。

今度様々な論評が出てくるでしょうから、私として2点だけ指摘しておきたいと思います。

1つは、半導体を中心とする台湾企業への影響です。
台湾産業会では、近年、「去台化」という言葉が使われるようになっています。

台湾は、虎の子のハイテク半導体産業を抱えてるからこそ、どこからも侵攻されない。半導体が、台湾を安全保障上安定化させている・・・。このロジックが、とりわけ米国の圧力で揺さぶられ、虎の子を米国、欧州、さらには日本などに里子に出し、台湾を去ることを強いられてるという意味になります。このことは、台湾の安全保障上の危険にさらしている・・・という危惧です。

例えばTSMCの熊本進出は、現時点では最先端とは言い難いので、「去台化」には今は該当しないかもしれません、最先端工場とされる米国アリゾナ工場はまさに該当します。

民進党政権が続くと、この圧力の中で、台湾産業界は、経営自由度を一層失われることは危惧されます。

2つ目は、民進党が進めてきた、新南向政策への影響です。
民進党は、8年間一貫して、投資の集中する中国のウェイトを引き下げ、ASEAN・インドを重視する新南向政策を進めてきました。新となっているのは、かつて李登輝政権時代に、中国離れのために類似政策を行ってきたことがあり、新となっています。

とりわけ注目されるのは、インドでしょう。
台湾のEMSは、地道にインドへのシフトを進めており、iPhoneでも、ローエンドモデルはインドでの生産が増えています。

最初は、中国で100万人規模の企業城下町を作っており、インド、ASEANは無理、と言っていた台湾企業ですが、着実に、政府の新南向政策に、平仄を合わせている感があります。

https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/mhri/research/pdf/insight/as200518.pdf

なお、台湾における選挙の熱気は、想像を絶するほどすさまじく、街中が、応援の旗と、絶叫で埋め尽くされます。日本シリーズの阪神ファン、高校野球の慶應の応援をイメージして頂いてもまだ足りないほどほどの興奮に包まれます。民進党は緑、国民党は青、今回第三党になった民衆党は白です。

台湾の皆さんの熱狂が、日本にも太く伝わったことは、嬉しく思います。私が駐在していたミレミアム時代から、台湾の皆さなは、オフィスに、自分が支持する政党の旗を堂々と掲げていました。それは、政治によって、台湾の対外政策や経済運営が大きく変わってしまうという切実な状況もありますが、戒厳令下の蒋介石時代、それを当初踏襲しつ、結果的に世襲を脱する方向に舵を切った蔣経国時代を経て、李登輝時代に直接選挙を実現、この民主化を誇りに想っていることもあるように思えます。

他方で、緑と青は、そもそも、大陸から来たエスタブリッシュメントの青と、台湾地場の緑では、考え方の乖離は大きく、私が台湾の大学の先生に聞いた話では、師匠の先生が緑推しか青推しかで、そこに自分の推しが合ってないと学位取るのが難しい面もある・・・・という話さえも聞いたことはあります。

それでも、選挙の翌日には、見事なまでに一挙に旗は片付けられている様子は、私には、ノーサイドにも見えるのです。選挙後にいつまでたってもポスター貼りっぱなしのどこか・・・とは大分異なり、選挙が終わり次第、機動的に、かつ、したたかに、生き残りを図る台湾企業、市民の力は、本当に逞しく、国際分散投資、リスクには、極めて敏感です。

本件は当面、安全保障などの視座で百家争鳴の議論が出て来るでしょうか、まず、報道されることのなさそうな「去台化」や「新南向政策」こういう視座も頭の隅に置いて頂ければと存じます。






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