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化学メーカーのJSRに、官民ファンドの産業革新投資機構が最大1兆円投融資を行う旨が報道されています。最終決定前の段階ですが、JSRは半導体関連の化学メーカーであり、産業革新投資機構は民間の出資分はわずかにあるも9割超が政府の出資であり、実質日本の政府ファンドによる半導体関連企業の買収ではないかと捉えられています。

JSRは元々半官半民で発足した経緯や、事業再編の渦中であるなるのなかで様々な思惑があり、JSR側とファンド側の思惑が一致したのでしょうか。事の行く末を見守りたいと思いますが、気になるのは、このような国有化に近い動きが、日本のプライム上場企業を対象に行われそうなことでしょう。

官から民へ・・・・それが日本において長らく続いた潮流でしたが、その流れに逆行するような印象はあります。無論、産業再生機構に金融危機時の銀行業への公的資金投入など、危機時に一時的に政府が公的資金を投入することはあります。まだ公的資金を返済しきれていない企業があり、むしろ、早く返済して欲しいというのが、これまでの潮流でしたし、そのような動きも続いています。

ファンドの経営陣は官民混合ですが、官の意向が強いことになるのは明白でしょう。経済安保の時代なのでそれは一理あるのかもしれませんし、「政策に売りなし」という格言があるように、半導体サプライチェーン上重要な化学メーカーとして存在感は高まるのかもしれません。

他方で、上場企業が、国有色の強い企業になることは、相当大きな変化であり、上場企業の最大の目的であり営利が、徐々に変化していくことになることへの危惧もあります。経済安保が先鋭化している分野で、米中いずれかの踏み絵をより明確に踏むことになると、片方の利得を失うのではないかと多くの方々は考えているのではないでしょうか。

日本の場合、半導体そのものでは主役となる企業の存在感はメモリ以外では希薄も、設備や素材、つまり主役を支える大道具、小道具では、いまだに高い存在感を持っているといわれています。

今回は、化学ということですが、日本の上場企業において数でみれば最大勢力が化学メーカーです。小職は上場化学メーカー経営者の方から、「日本の上場企業のなかで数が一番多いのは化学だ。グローバル化も非常に進んでいる。化学式を変えて新素材を生み出すのは、日本の得意分野なのだ」と、もっと評価されるべきであると諭された経験があります。

また、「政策変化の激しい新興国では先手必勝で勝ち逃げするのが定石だ」という声も、別の化学メーカーの営業陣からうかがったことがあります。

日本の製造業の4番バッターが自動車であることは論を待ちませんが、堅実に付加価値を高めて、日本の製造業を支えているのが素材であり、そこには日本の強みが凝縮されているともいえます。また、勝ち逃げがあまり得意でないとされる日本企業において、稼げる時に一挙に稼ぐという言葉を聞く機会は少なく、そこでも触発された経験があります。

つまり、化学は日本がいまだに競争力を持ってる分野ですが、ここに、政府ファンドが巨額を注ぐことは、大きな波乱要因になるのか、それとも、新たな潮流ともなるのか気になるところです。

産業政策の復活は、小職は、中国に触発されて、先進国で再燃しているとみていますが、果たして、経済安保の最前線分野では、ある程度、この先祖返りともいえる政府の関与強化が有効なのか、注目致しましょう。





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