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アジアのサプライチェーンはどうなる(5)インドネシアへの生産移管の考察

前回インドについて考察しましたが、インドネシアについても考察してみましょう。

インドネシアへの関心が高まる契機となったのが、2011年にタイで起きた大洪水でした。タイへの一極集中リスクが露呈化したことが、アジアのデトロイトとの異名のあるバンコク郊外から、分散先としてインドネシアのジャカルタ郊外への関心を高める契機となりました。無論インドネシアの内需の伸びしろが大きいことも背景にあります。

さらに、2014年に、初の一般市民出身の大統領となるジョコ・ウィドド政権が発足。民主主義の浸透も、世界の耳目を集めました。それまでの大統領は、軍人か建国時の貢献者に近い方々で占められていました。ジョコ氏は2019年に再選されます。多党制の同国において、政治的なライバルも取り込んだ内閣を発足させるなど、辣腕をふるいます。民主化の歴史が浅い国がASEANには多いこともあり、政治の安定性は、投資環境をみるうえでは、重要な要素です。

他方で、伝統的に外交面で中道姿勢が強く、自由貿易へのスタンスは、積極的とは言い難い面があります。例えばベトナムが参加しているTPPには参加していませんし、関税撤廃されたASEAN域内において、アンチダンピングなどの措置を取って対抗する傾向がまだ残っています。かつ、資源国ということもありますが、資源を活かしてそれに付加価値を加える投資を優先する、資源ナショナリズム的な傾向も散見されます。

そのため、現時点で、自動車やエアコン、光学機器ではタイ、スマートフォンやエレクトロニクス、自動車部品ではベトナムの存在感が目立ちますが、インドネシアの存在感は、そこまで高いとは言えません。

インドネシアをグローバルな一大生産拠点に据えている企業は、限られています。それでも、自動車、オートバイ、プリンターなどでは、インドネシアを内需と輸出のハイブリッド拠点化する動きがみられます点は注目されます。

米国・中国との関係で整理すると、民主主義は誇りですが、価値観外交には賛同しつつも全面的にはなびかず、安保面では、いずれにも中道姿勢で、一方だけには寄らず、バランス重視が徹底しています。米国・中国との関係については、あくまでニュートラルであることにこだわっているように見受けられます。

経済面では、中国製品への流入への警戒感が強く、他方で対米輸出拡大の機会を探っているように見受けられます。投資資金では、中国に期待しており、豊富なニッケルを活かしたバッテリー・EV産業振興に呼応しているのは中国勢ですので、やはり、米国・中国のバランスを取っているという見方もできます。

他方で、市民の日本ブランドへの信頼度が高いことは、日本企業には朗報です。自動車、オートバイでの、強固なブランド構築もありますが、日系金融機関が進出している背景には、「地場金融機関よりも、日系に預ける方が安全だと思っているため」(筆者がジャカルタで日系金融よりヒアリング)という声も聞かれます。AKBグループの姉妹グループが最初に進出したのはインドネシアのJKBでしたが、やはり、日本ブランドが効くという下地が、その成功につながったのかもしれません。

経済安保の時代、あくまで中道にこだわる同国。他方で、2024年には、新大統領が誕生予定です。
マクロ経済の脆弱性、資源依存の貿易構造、インフラ整備は道半ばですが、大国の摩擦の中で、米国寄りの国を選ぶ手もありますが、白黒つけない国のほうが、得策な面もあるでしょう。

インドネシアをどう活用するのか、どう向き合うのか、真剣に考える時が来ているように思えます。






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