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僕は厚底ブーツが売れない

後輩のTくんと話をしている中で、後輩の知人Aくんの話になった。

Aくんは、主に低身長の男性が履く厚底ブーツを売るビジネスをしているらしい。中国の工場で生産をし、それを日本で販売しているのだとか。これが、相当売れているようで、億単位の稼ぎになっているとかなっていないとかいう話だった。

ここからは、「Aくんはこういう人だろうと」勝手に僕が決めつけて話を進める。実際のAくんのことは知らないので、仮にA'くんとして妄想してみる。

A'くんは、何かをきっかけに厚底ブーツが結構需要があることを知った。A'くんは別に自分が低身長でコンプレックスを持っているわけでもないし、靴にも興味がさほどあるわけでもない。けれどこれはビジネスチャンスだとにらんだA'くんは、厚底ブーツのビジネスを構想する。
まずは原価を限りなく安くするために、安く生産できる工場を探す。見つけたのが中国の工場だった。靴のデザインにそこまでこだわりもなかったので、流行りの靴をなんとなく調べ、あとは工場でいい感じに仕上げてもらうことにした。
結果、可もなく不可もない厚底ブーツが誕生した。ECサイトを立ち上げ、ターゲット向けにオンライン広告を打ちまくったら、可もなく不可もない厚底ブーツはまたたくまに売れ出した。1年後、A'くんは莫大な利益を得ることができた。

僕の妄想上のA'くん(念押しのため、実在のAくんとはまったく関係ない)は、「好きなこと」とか「やりたいこと」とか考えない。シンプルに「ビジネスになりそうなこと」として厚底ブーツをつくった。正確に言えば、ビジネスがA'くんの「好きなこと」であり「やりたいこと」なのである。

僕は、A'くんがうらましい。まず、僕にはビジネスへの興味がほとんどない。もちろん僕だってお金は喉から手が出るほどほしいけど、「稼ぐ」ということへの好奇心や情熱はA'くんと比べると薄いだろう。「稼ぐ」ということの手前でいつも「好きなこと」とか「やりたいこと」とかをぐちぐち考えてしまう。

加えて、一番の問題は僕の中の「美意識」がいつも邪魔をしているということだ。仮に厚底ブーツにビジネスチャンスがありそうだと知ったとしても、「でも厚底ブーツにそこまで興味ないし続けられる気がしない」と離脱してしまう。もしくは「せっかくつくるなら洗練された厚底ブーツに洗練されたウェブサイト、洗練された広告で洗練されたブランドにしよう」とやけにクリエイティブまわりにコストをかけ、採算に見合わないビジネスにしてしまうだろう。

僕は厚底ブーツが売れない。

これは一種の呪いだと思っている。「美意識」と言えば聞こえはいいが、お金を稼ぐという点においてはしばしば障害になる。実際にこの「美意識」が発揮されたところでどれほど美しく洗練された、大金を出す価値のあるものが生まれるのかもあやしい。そもそも「美意識」に賭けるほどの強い情熱があるわけでもない。

儲けに走りたくない。なんて軽々しく言ってしまいがちだけど、儲けに走ること自体は悪いことじゃない。「儲けに走るためには、大切な何かを捨てざるを得ない」と勝手に脳内で定義をしているから拒否反応を示しているだけかもしれない。そのくせ、そこで見出される「大切な何か」がどれほど大切なのかも正直あやしい。

儲けでもない。美意識でもない。いったい僕はどこに向かって走りたいのだろう。

なんて考える前に、どこでもいいから走った方が、本当はいいんだろう。

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