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モテたい彼と依存する彼女 第11話
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郁斗はこれまでのことを整理しながら、少し複雑な気持ちで聞いていた。
吉川が知那と莉々華に寄り添うように言う。
「大丈夫だよ……ってそんな簡単なことじゃないかもしれないけど、私C組に友達がいるんだけどね、松野さんに対して、面倒だから言わないけど不満を持つ子は多いみたいだよ。さっきのクラスメートの反応がまさにそんな感じだったし」
「そうそう、それに山本さん音声録ってたんでしょ? 最高。ほんと俺も撮っとけばよかった」
陸が珍しく嬉しそうに言って、莉々華にハイタッチを求めてた。落ち込むように俯き気味だった莉々華が、顔を上げて手を翳す。そこに陸が手を合わせる。パチン、と心地いい音がする。同時に、莉々華は笑顔になった。案外この二人は気が合うんじゃないか、と郁斗はなんとなく物珍し気に見てしまう。
「私、友達より彼氏の方が良いのかなって思ったんだ」
知那が話し出す。郁斗はさっきの知那の話を聞いても、いまいち知那が自分に対してどう思ってるのかわからなかった。聞きたいような、聞くのが怖いような、複雑な気分だ。
「友達に依存するのはおかしなことなんだってわかった。友達はひとりじゃなくてもいいから、ひとりだけ特別すぎるのもおかしいし、ひとりじゃなくてもいいのに誰もいないのっていうのが、すごくつらかった。でも、恋愛だったら、彼氏に夢中になるのはおかしくないし、好きなのがひとりなのも当たり前だし、彼氏がいなくてもおかしくない。友達がいないのは……ちょっと変な目で見られる」
……なるほど、そういう考えもあるのか、と郁斗が納得しかけたところに、陸が声を上げる。
「それって……」
と言って止まる。――それって、なんだ?
続きを言えと陸を見るが、陸は言いづらそうに郁斗を見ていた。
「うん、なんか、本当は彼氏より友達のほうが上って聞こえるな」
その空気を感じたのか、直哉が続けた。
「本当は恋愛じゃなくて友達が欲しいんじゃない?」
直哉が言ってしまったらもういいや、とばかりに陸が念押しするように言う。
そう言われて知那は一度大きく目を見開いて、ぱちりと瞬きをした。
そして、郁斗を一度見て、その視線を斜め上に向けた。
「……そうかも」
と応える。
「えっ!」
思わず郁斗は声を上げる。
陸と吉川が、気の毒そうに郁斗を見ていた。
直哉はにやにやと耳元で「どんまい」と言い、莉々華は心なしかほっとしたような表情だった。
「郁斗くんは私が想像してたよりもずっといい人で……今よりもっと仲良くなれたら嬉しいなと思う。友達として……」
「友達として……」
「友達から、ってことだな」
思わず繰り返す郁斗に、直哉がフォローする。恐る恐る知那の顔を見ると、ちょっと不思議そうな顔をしてから、笑顔で頷いた。
……まあ、いいか、と郁斗は思う。正直、知那のことはいつの頃からか放っおけない存在になっていた。気づいてはいたが、気づないふりをしていた。知那にはまだまだ秘密がありそうだったから。
でも、すべてを聞いた今、やっぱりほっとけなくて、郁斗への告白も、恋愛じゃないかもしれないというのなら、友達として見守ろう、と思う。
が、やっぱりなにか悔しい。
「でもほら、郁斗くんだって最初知那に告白されて断ろうとしたんでしょ? だったらそれでいいじゃない!」
莉々華がそう言い、知那も「そうだったね……」と呟く。
「約束、ありがとう。もう断ってくれていいからね。本当にありがとう。郁斗くんたちがいなかったら、もう楽しい高校生活なんてないんだって諦めてた」
知那は郁斗に向かってありがとう、と何度も言う。
「でも、俺は今は……」
「知那の友達として、私もよろしくね、郁斗くん!」
郁斗の言葉を遮り、莉々華が笑う。そんな莉々華を見て嬉しそうにしている知那。
この子はわかってやってるな、と気づく。その上で、莉々華は郁斗に向けて「ごめんね」という表情をする。
なるほど、しばらくは莉々華にはかなわないだろう、と郁斗は覚悟した。
陸と直哉と吉川が、「頑張れ」と声を揃えたのが耳に入った。
C組での騒動があったあとも、知那は相変わらず1日に1度はA組に顔を出していた。変わったのは、莉々華も一緒に来るようになったことだ。吉川たちが歓迎して、あっという間に仲良くなった。
知那は、A組に来ると必ず郁斗たちにも声を掛けていく。テストどうだった、とか、体育の授業今日はあれだよ、とか、他愛のない話をする。周りはもう、知那と郁斗が話していても当たり前のように受け入れるようになっていた。
C組でも莉々華と知那は一緒にいることが多く、松野たちはもう絡んでくることはほとんどなくなったという。証拠を録ってあるという発言が効いたのだろうと莉々華は言うが、知那はそうは思ってないらしい。そもそも、松野は莉々華と仲良くなりたいがために知那を邪魔者扱いしていたので、莉々華が離れていくなら知那に嫌がらせをする理由もなくなったのだと。ただ、村田のこともあり、やはり知那と顔を合わせると嫌そうな顔をして避けられる、とのことだが、実害はないので気にしていないと。
莉々華の恋愛感情のことは伏せたまま、知那が告白していたのも「ちょっと彼氏って存在に憧れちゃって」とごまかしてるというし、誰もそれ以上のことは言ってこないという。それに、今は「郁斗ひとりに片思い中」という印象が強く、応援されることもあるという。
そして莉々華と知那が松野たちと決別したのを見て、他のクラスメートたちに声を掛けられることが多くなったという。なので、例え莉々華が休んだ日でも、知那は一人でいるようなことはもうない。
知那は、一気に友達が増えちゃった、信じられないくらい毎日楽しい、という。なによりもう周りを気にして莉々華と離れてる必要がないというのが知那にとっては幸せそうだ。
郁斗はなによりそのことが嬉しかった。知那が、この先も学校で寂しい思いをしていると感じることは耐えられそうになかったから。日常は耐えられても、学校にはイベントがある。なにより修学旅行の前に解決して良かったなと思う。
吉川たちと楽しそうに話してる知那の姿を見ていると、急に隣に気配がした。
「知那、可愛いでしょ」
「うん、かわいい……」
思わず考えたことをそのまま口にしてしまった。
慌てて振り向くと、そこには莉々華がいた。
「でしょー。知那はね、まだ本当の恋愛感情ってよくわかってないと思うんだよねぇ」
「……おぉ、そうかもな」
「だから私もまだまだ可能性はあると思ってる」
「……ん?」
「今のところ、知那にとっては郁斗くんより私の存在の方が大きい自信があるし」
「私もそう思うー」
莉々華の声にかぶせて気づいたら吉川が隣にいた。
「私たちくらいの恋愛なんてね、結婚を考えてるわけじゃないの。恋愛がしたいの。そこに性別なんて大きな問題じゃないの」
「お……おぉ?」
「郁斗がぐずぐずしてるうちに誰かに知那ちゃん取られても知らないよってこと。見守るのは郁斗の優しさだと思うけど、動く必要があるときは動かないと取り返しがつかなくなるんだよ」
「そうそう、私のほうが行動力は上だよね」
「ほんとそう! 知那ちゃんからの好意もね!」
莉々華と吉川が声を上げて笑う。
ひとしきり笑い合った後、真面目な顔をして莉々華が郁斗に向かう。
「……私より、ずっと可能性は高いんだよ。知那のこと、本当に大切なら、自分で守る覚悟決めてよ」
それは、ぐだぐだ自分に言い訳してきた郁斗の心を見透かしたような言葉だった。
「もちろん、私はこれからも親友の立場として知那を守るけどね」
莉々華の、これまでの悩みや今もある苦悩を思えば、郁斗のグダグダした気持ちがあまりに情けないものに感じてしまった。莉々華が自分の気持ちを伝え、一度離れて、また知那の友達として傍にいるという強い決意。
なにをやってるんだろう、と郁斗は自分を恥じた。
「ありがとう」
そう言って、郁斗は席を立った。
クラスメートたちと楽しそうに笑って話す知那に近づく。
「汐見さん、話があるんだけど――」
了
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