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#3-①長短どちらも





文体の舵をとれ
練習問題3
問1
一段落の語りを15字前後の文を並べて執筆すること。不完全な断片文は使用不可。
(テーマ案 ある種の緊迫、白熱した動きのある出来事)



 細いエスカレーターの先がいい。上の階ならなおのこと。人の出入りは少ない。じっくりと探し物ができる。私は9階に降りたった。少ない中にも多そう、だからだ。たくさん並んだ背表紙を見上げる。どこならば補色かという視点をもって。少しずつ糸を吐き作る。クモの巣は顔の高さだ。足元にも仕掛けが必須である。私は蟻地獄のすりばちを置いた。虫を見るような目つきは見送る。私はじっくりとページをめくる。焦点は文字の手前に結ぶ。気配を察知するためだ。あわれな虫がきた。ゆっくりと羽を休めている。襞がきれいで膝裏が見えない。黒髪は真っ直ぐすぎない。ひたひたと近づいてみる。彼女の横顔は真剣だ。通路側の背表紙に人差し指を当てた。そこを支点としぐいと隣へ滑りこむ。


(メモ)
バランスがどうにも難しいですね…。
15文字、ときいて
わたしが思い浮かべたのは俳句でした。
音で17音くらいなら、漢字も混ぜれば15文字におさまるだろうなぁと。
結果、9文字から17文字。
ちょっとはみ出たかな、
ストイックさがたらなかったかも…。


追加問題
問1
作者として距離をおいた書き方で。

 

 男はエスカレーターの先を目指す。上の階を、上の階を目指す。人の出入りが少ない方がいいのだ。じっくりと探し物ができる。案内板を見て9階に降りたった。好ましい閑散の中を歩いた。男は並んだ背表紙を見上げた。補色となりうる場所を探す。見つけた場所で少しずつ糸を吐いた。クモの巣は顔の高さがいい。それから、と辺りを見回す。足元の仕掛けに蟻地獄を置いた。男はふと視線に気づく。虫を、見るような目つきだ。(あの目が虫に作り替えたのだ。自分を、社会から弾いたのだ。)男は背表紙に視線を戻した。じっくりと、ページをめくる。男の焦点は文字の手前に結ばれる。それは気配を察知するためだ。むこうから、あわれな虫がきた。男は背中に目を移し観察する。虫はゆっくりと羽を休めている。襞に不自然なところがない。膝裏は隠れゆかしさがある。真っ直ぐすぎない黒髪が揺れる。男は用心深く接近を試みる。視界を狭めたままの横顔を伺う。男は周囲に視線を走らせた。まずわずかに、通路側へ移動する。つぎに背表紙に人差し指を当てた。そこを支点にして体をねじ込んだ。あわれな虫は囚われの虫となった。

メモ 大変難しかった。
この形が、というより、最初のイメージを保ちつつ一人称→三人称と変化させることが、かな。

共通問題?

長く、700字程度の一文に。

 細くなったエスカレーターの先がいい、上の階ならなおのこといい、人の出入りが少なくてじっくりと探し物ができるところ……と考えながら案内板をチェックして、私はいま9階でエスカレーターの長い長いゆっくりとした上昇を外れて、少ない中にも多そう、という予想をたて胸のうちだけを高鳴らせ震わせる、ずらずらと続く本棚の背は高く横にもずうっと広がっており、並んだ背表紙の高さやフォントが揃っていない居心地の悪さを利用したらどうかなどと巡らせつつゆるゆると、ここが肝心なところで決して急がずゆるゆると見上げたりしゃがみこんだりをくりかえし、どこならば補色か影かと丁寧に点検をしながら、少しずつ糸を吐きクモの巣をはってゆくのは顔の高さ、足元にも仕掛けが必須なので私は蟻地獄のすりばちを下のほうへ置いて準備を完了とする、ふと視線に気づくと虫を見るような目つきにぶつかり、目は同じ高さのまま顔の向きを45度変えながら、誰が私を虫にしたこんな場所に追いやったと冷たく燃える炎をのどの奥へ押しやり飲み込み、上から体重ごとのしかかって胃の底へ沈めに沈め、涼しい顔をとりもどしてーーというのは気分の問題ではじめから涼しい顔を崩したりはしていなかったはずだーー私はじっくりと時間をかけて1ページを隅々まで舐めるようになぞる、そんなスピードを意識しながらページをめくり、その実焦点は文字の手前に結ぶように、心の目ふたつは背中に貼り付けあわれな虫の現れるのを気配を消して伏せて待つうちに、一匹のあわれな蝶が来てゆっくりと羽をとじ、一冊の本を手に右手の人差し指でページをなぞり出す、そのスカートの襞はきれいで膝裏は見えず、黒髪は真っ直ぐすぎない生まれたままのようすをもち、真剣さをふちどって甘いにおいを放っていて、私はおびき寄せられたようにひたひたと近づき通路側の背表紙に、右手の人差し指を当てるとそこを支点にぐいと隣へ滑りこんだ。

メモ
これは楽しかった。緊迫感を失ったかわりに
人物のやばさ!が表に出てきたかも?

短く主観的に
短く客観的に
一文で主観的に
 
以上3つを比べてみると…?

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