見出し画像

さよならエスタ(HND-CTS)

エスタがなくなるだと?


札幌駅にはエスタという商業施設がある。
元々札幌そごうだった建物だが、そごうの閉店後ビックカメラやらユニクロやらが入居し、地下には大食品街が広がっている。

そのエスタが8月末で閉店するのだと。建物を壊してしまうのだと。
聞いた途端泣いた。

札幌での勤務時代、ほぼ毎日地下の大食品街にランチを買いに行っていた。
来客がないと思ってカジュアルな服で出勤した日、ジャケットが必要だと気づいてエスタのユニクロに買いに行ったことは二度あった。
そごう時代の思い出もたくさんある。
わたしの通った大学の正門は札幌駅から近く、友人の間ではわたしが講義に出ていないときは海かそごうにいると言われていたし、実際そのとおりだった。

そのエスタがなくなってしまうなんて。

悪友が「エスタに会えなくなるんだよ?帰ってくるよね?」と甘い声でささやく。
時は7月、ヒコーキのハイシーズンだ。ほとんど定価でしかチケットが買えない。
「LCCって知ってる?1万円台で乗れるヒコーキがあるんだよ?」また悪友がささやく。
いや、わたしはJALが飛んでいる所にはJALでしか行かないという謎縛りで自分をぐるぐる巻きにしているんだ。
株主優待とマイルでなんとかヒコーキ問題を解決し、いつもの1.5倍の料金のホテルを予約し、断固として有休を宣言し、エスタに会いに行く手筈を整えた。
我ながらエスタ愛が重い。
エスタの歌(「エスターエスタみんなのエスタ!」とかいうアレだ)とCMかなにかの「いーえすてぃーえーえすたー」を低く歌ったり唱えたりしながらその日を待った。札幌民以外にはまったくわからないだろうなこれ。

2023/7/XX JL519 HND-CTS A359(JA05XJ)


そして札幌上陸の日、千歳から急いで大通のホテルに向かい、さらに札幌駅のいつもの飲み屋へタクシーを急かす。タクシーはいきなり信号無視をして交差点の真ん中で止まった。どういうことだ。怖すぎる。
いや、その前になぜ飲み屋に向かうのだ。エスタはどうした。
いきなりエスタに行くと泣いてしまうので、まずは例の悪友たちと飲んで、エスタには翌日ゆっくり会うのだ。
好きすぎて顔を直視できないという状況と同じだ。奥ゆかしさMaxだな自分。
エスタの思い出を語り、夜は更けていった。

そしてエスタへ


翌朝、喫茶店でモーニング→狸小路を端から端まで→喫茶店でお茶→ビッセのソメス→アピア、と寄り道しすぎてエスタになかなか着かない。
早く会いたいような、会ったら泣いちゃうから会いたくないような複雑な気持ちだ。

チカホからアピアへ、そしてついにエスタの地下入口へ。

あぁ、もうあかん

隅から隅まで各階を歩き回り、ずっと涙目だった。
別にわたしが情緒不安定なわけではなく、わたしの友人たちはみんなそうだった。エスタの隣のビルに勤務していたわたしたちのエスタ愛は本物だ。
ある友人は閉店までにエスタのすべてのレストランで食事をしたそうだ。以前の勤務先にいたならわたしもそうしただろう。


45年間ですよ この床を歩く感触も覚えている

今はなくなってしまったが、10階のレストラン街の中華屋で「名物特製牛肉あんかけチャーハン」をよく食べていた。
これもまたなくなってしまったが、地下の「ふーどさぷりハシモト」で週4回はカレー弁当を買っていた。カレーが売り切れだと、お店のおばちゃんは毎回申し訳なさそうな顔をしていた。そんな時はおばちゃんのオススメを買って帰るのだった。
大学生の時は、梅屋でシュークリームを買って当時の彼と教養食堂(今思うと変な名前だな)でよく食べたものだ。その彼は今では世界でただ一人実印と印鑑証明を預けられるくらい信用している男として存在している。でも夫じゃないんだなこれが。彼の母もそごうの旧ダリア友の会会員だったな。
思い出は尽きない。

そごうの面影残るエスタよ

最後は屋上だ。最後にプラニスホールに来たのはいつだったか。今はイングリッシュガーデンになってるのか。しばし空を見上げ、隣のビルを眺め、庭を楽しみ、スプリンクラーから逃げまどい、心が痛くなってきたので帰ることにした。あるいは熱中症の初期症状か。
こんなに愛されている建物を45年で壊してしまうのはもったいない。これも新幹線のせいか。
ところで札幌に新幹線って必要なのだろうか。自分がヒコーキ派なのでよくわからない。横浜から名古屋へもヒコーキで行くので、そもそも新幹線に乗らないんだ。最後に乗ったのは・・・20年前、いや30年前か・・・まさか。
札幌から函館に行くときに乗る想定なんだろうか。
まぁ、今となっては道民でないのでとやかく言う資格もないのだが。

ぐるぐるとエスカレーターで地下まで降り、名残惜しいが涙目でエスタをあとにした。振り返ると泣きそうだ。

翌日は本当のお別れを言いにまたエスタに来た。
サザエで筋子と鮭のおにぎりを買い、なぜこの猛暑に筋子なんて買ったんだろうと後悔し、快速エアポートに乗り込んだ。

振り返るとエスタ

札幌に住んだことがない人にはさっぱり理解できないエスタ愛だろうが、どうしても書いておきたかった。
今も札幌に住んでいたら、解体されるエスタを見ることになっただろう。それは耐えられない。

号泣


ありがとうエスタ。大好きだよエスタ。忘れないよエスタ。
さよならエスタ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?