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『二コラ・テスラが本当に伝えたかった宇宙の超しくみ』

 井口和基博士による『二コラ・テスラが本当に伝えたかった宇宙の超しくみ』を読んでのメモ。2013年に発刊なので、新しいものではないのですが、これまでなんとなく手に取らずにいました。
 井口博士の著作は、311よりもずっと以前にバックミンスター・フラーやカウフマンらを調べていた時からなので、ずいぶんと前から読んでいるのですが、あらためてこの本には強いインパクトを受けました。とにかく科学史の書籍として読むと面白い。19世紀の物理学史が、通常のものとは全く異なる観点から描かれます。
 特にエーテルの存在が肯定されつつあったということや、物理学のスーパーヒーロー、アインシュタインの相対性理論に根本的な再考の余地があること、等々、ほぼ完全無欠だと考えていた物理学の理論が揺らぐような記載がたくさんあります。また詳細に書かれた科学者同士の暗闘も大変面白い。そして上巻の最後に述べられる「我々自体が永久機関の存在の生きた証明なのである」という締めくくりの一文への流れは圧巻です。

 いわゆる「ニューサイエンス」的なものは学生時代から大好きだったのですが、そこで語られる「パラダイムシフト」の記載はたいてい現代物理学誕生からのものでした。特殊相対性理論・量子力学の誕生といったあたりです。C+Fコミュニケーションズによる『パラダイム・ブック』もやはり物質編から始まっていました。
 これに対して医学・生物学領域は、当時はあまりぱっとしたようには見えず、物理学は物質を扱うだけに、生命というあやふやな対象よりも理論の展開がスパッとしているなあと感じたものでした。
 それが今回この本を読んで、そうでもないこと、とりわけ下巻では著者が「数学」との対比の中で、物理学自体の過去への振り返りやらルネッサンス的な変革の可能性の困難さを述べているのは驚きでした。
 では、医学ではどうだろうと思いをはせると、かつては物理学よりも大きく遅れた印象があったのですが、当然数学のような厳密なものでもありませんが、それなりにルネッサンス的な変革は時折認められてもいます。江戸期の古方派の台頭や、東洋医学の科学的解明、さらには近年の統合医療の誕生はまさにこうした流れとしても理解できるのではないかと思うのです。
 つまり苦痛・疼痛という「人」にとって不可避の事柄と密接な関係にあることから、一切の無視というわけにはいかないようです。これに対して「物質」を対象にしたものは、外部世界の理解の仕方を基盤にするものですから、当然、極めて保守的に改革を拒むのは当然なような気がします。

 ちなみに数学がこうした呪縛にはまりにくい、というのは「数字」自体がある種の抽象的な概念のため、歴史的な流れの中で齟齬がきたされないように、高い論理性整合性が求められた結果ともいえるのではないでしょうか。
 少し事情が違いますが、西洋哲学の流れなども統合と否定によって、断続無く今日へと続いているようにも思われます。これに対して本書ではエーテル概念において、19世紀の物理学は大きな分岐点を迎えたと考えています。またその他にも詳細に検討すれば、電磁気学、量子力学、相対性理論など多くの領域においても少なからずこうした事情をかかえているようです。
 これは当然、医学・生物学や化学、地学など他領域においても同様なのでしょうが、一般的な意味での振り返りにくさ、は納得です。それだけ「常識」として染み付いているということでしょう。

 こうした中で、フリーエネルギーや永久機関といった概念は、眉唾として扱われるというのも分かります。またエントロピー増大の法則からの決定論的で閉塞した生命観は、現代の医学・生物学の領域の閉塞感との連続性を感じさせます。
 これに対して本書では、開放系と孤立系の相違からの説明も目から鱗でした。孤立系の中でエントロピーの増大に任せて消えゆく生命という視点から、実際は開放系なわけだから生命は「永久機関」なのだという強い姿勢はとても勇気づけられます。
 確かに、太陽エネルギーがふりそそぐ地球環境は確かに開放系ですし、生命誕生以来、紆余曲折あるものの断続することがなかったという点では「永久機関」でもあるわけです。

 我々は何か、無条件に受け入れている「前提」により、自らの可能性を呪縛している面があるのかもしれません。「このように決まっている」といった思い込みの枠を少し外すだけでも、別な展開が容易に見えてくるといったことを感じさせられました。開放系による意思決定システムとしてのジャングルカンファレンスやオープンダイアローグもこうした延長上に捉える必要があるでしょう。
 ちなみに先日、録画した庵野監督の「プロフェッショナル」を見ていたのですが、肥大したエゴの外側で「エヴァ」を作成したいという趣旨の発言があり、まさに開放系としての意識の在りかを感じさせられました。

ニコラ・テスラが本当に伝えたかった宇宙の超しくみ 上 忘れられたフリーエネルギーのシンプルな原理画像

ニコラ・テスラが本当に伝えたかった宇宙の超しくみ 上 忘れられたフリーエネルギーのシンプルな原理(超☆わくわく)
井口 和基 ヒカルランド 2013-11-14


科学史的な興味ある方は、この上巻がおすすめです。「超しくみ」とか「超☆わくわく」とか題名がちょっとなんなのですが、内容はかなり重厚です!

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