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GPSの一般相対性理論による効果

GPS(全地球測位システム)における一般相対性理論による効果を考えましょう。

はじめに、近くに大きな質量がない場合、つまり重力の効果が無視できる場合を考えましょう。この場合、時空間は平坦であるといいます。平坦な平面において、間隔 $${(dx,dy)}$$ だけ離れた2点間の距離の2乗は$${dx^2+dy^2}$$となります。さらに、時間$${dt}$$を含めた平坦な時空では、時空間における距離$${d\tau^2}$$は以下のようになります。

$${d\tau^2=dt^2-dx^2-dy^2}$$

これを相対性理論における計量といい、時空間の局所的な構造を特徴づける基本的な量を表します。これを極座標$${(r,\theta)}$$ で書き直すと、

$${d\tau^2=dt^2-dr^2-rd\theta^2}$$

と書くことができます。つまり、$${dx^2+dy^2=dr^2+rd\theta^2}$$ということなのですが、ここでは詳しい説明は省きます。

次に、近くに大きな質量がある場合、つまり重力の効果がある場合を考えましょう。この場合、時空間は曲がっているといいます。地球やブラックホールの質量を$${M}$$とすると、曲がった時空間での計量は一般相対性理論ではシュワルツシルド計量で表すことができます。

$${d\tau^2 = \left( 1-\frac{2M}{r}\right) dt^2 -\frac{dr^2}{1-\frac{2M}{r}}-r^2d\theta^2}$$

平坦な時空の計量と比べて、曲がった時空の計量であるシュワルツシルド計量には、$${1-\frac{2M}{r}}$$の分が加わることになります。

ここで、GPS衛星がシュワルツシルド計量によって、どのような効果が表れるか考えましょう。GPS衛星には原子時計が搭載されていますが、GPS衛星は一定の軌道上を動いていますので、その原子時計では$${dr=0}$$とできます(軌道がふらついている場合が$${dr\ne0}$$)。
シュワルツシルド計量の全体に対して、$${dt^2}$$で割り算をしますと、

$${\left( \frac{d\tau}{dt}\right)^2 = \left( 1-\frac{2M}{r}\right) - r^2\left( \frac{d\theta}{dt}\right)^2}$$

となります。

ここで、$${\frac{d\theta}{dt}=0}$$の場合を考えましょう。つまり、GPS衛星が地球から一定の軌道上に止まっていて、GPS衛星と地球との間に一定の距離がある場合のみを考えます(なぜか?ある距離だけ離れているだけでも重力の効果が出てくるので)。GPS衛星の半径を$${r_s}$$、GPS衛星の原子時計の進みを$${dt_s}$$、地球の半径を$${r_e}$$、地球の時計の進みを$${dt_e}$$としますと、

$${\left( \frac{dt_s}{dt_e}\right)^2 = \frac{1-\frac{2M}{r_s}}{1-\frac{2M}{r_e}}}$$

と表すことができます。

さらに、地球の質量と半径、それから、周期12時間とした場合の軌道半径の値を入れると、GPS衛星の原子時計の進み$${dt_s}$$と、地球の時計の進み$${dt_e}$$の比は以下のように計算できます。

$${ \frac{dt_s}{dt_e}\approx 1+5\times 10^{-8}}$$

つまり、位置の効果だけで、1日あたり50マイクロ秒の差が生まれることを意味します。これは小さな数字に思えるかもしれませんが、距離に換算すると、15メートルもの差が出てきます。GPSは、この分だけ補正を加えないと、正確な位置情報を我々に与えることはできないということになります。


参考文献


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