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波と粒子の二重性

「そうおっしゃっても私は二つの窓の両方を一緒に通って部屋に入ったのです」

これは、朝永振一郎のエッセイ『光子の裁判』の一節である。光は波なのか粒子なのか。朝永は「光子」を擬人化した裁判劇で説明しようとする。被告の「波乃光子」が二つの窓の両方からしのび込むことができたと主張する弁護士と、その非常識な説明に疑いの目で見る検察官との論戦が繰り広げられる。
 量子化された光である光子を最初に思いついたのは、ドイツ出身のアルベルト・アインシュタインで1905年に発表された(光量子論と呼ばれる)。当時、光は波動性のみを持つとされていた。
「この光量子を私たちは、光子と名づけるのですが、それはエネルギーのごく小さな塊であって、真空の中を光の速度で進んでゆくのです。」(アインシュタイン、インフェルト『物理学はいかに創られたか』岩波書店)
アインシュタインは、このエネルギーの小さな塊Eは、
E = hν
となるとした(hはプランク定数、νは光の振動数)。
金属表面に光を当てると電子が放出される光電効果を説明するのに導入された。アインシュタインといえば、相対性理論と思われがちだが、光量子の導入によって光電効果を説明した業績によってノーベル賞を受賞している。
 また、粒子であると考えられていた電子も、現在では波動性があることが分かっている。光が二重スリットを通過すると干渉縞をつくるように、電子も二重スリット実験で干渉が見られる。実際に実験されたのは比較的最近で、日立の外村博士が検証したのは1989年である。粒子でもあり波動でもあるものを量子と呼ぶ。
波でもあり、粒子でもあるため量子は水面の波と同じように重ね合わせることができる。量子コンピュータはこの量子の持つ重ね合わせを利用する。0か1かのデジタルビットではなく、同時に0と1両方になるビット(0と1が重ね合わさった状態)を使って、量子コンピュータは考えられるすべての計算を同時に行うことができる。


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