採用面談はオンボーディングプロセスの始まり

【このNoteのポイント】

①個人の能力が組織の能力の尺度になる業種(IT、コンサルティング)では雇用側は特に被雇用者に対してHumbleでなくてはいけない。

②組織へのオンボーディングとは新しい社員が出社する日でも採用通知をもらった日でもなく、おそくとも採用面談を開始する瞬間から始まっている。

③社員はいつか、それが定年であれ、退職をするのだから、相手のキャリアに対して真摯に対応し、本当に自分の会社で働くのが、その人にとって良いのかどうかを、引き受けて考える必要がある。

【本題】

現職で組織の人事担当としての役割を付与され、面談をすることが増えている。これまでの会社員生活で相当数の採用を経験したが、同僚の面談に同席する中でいつも気になることがあった。それは、ほとんどすべての面談者が、そそくさとドライな自己紹介(会社名と氏名)をしたあと、たいしたアイスブレイクもなく、自動車免許発行所の役人のような態度で、「ではあなたのこれまでの経歴を語ってください。」という種類の質問をすることである。

この質問(?)はうまくいっているのだろうか?といつも気になっていた。それはまるで市場に行って肉屋(もうそんな市場は東京にはないけど)でニワトリの足をつかみながら「こいつはよく食って太ってますか?」と聞くようなものだ。ほとんど無意味だし、ここからわかるのは肉屋が喋れるヤツ(誠実かどうかも、ある程度経験を経ないとわからない)かどうかで、ニワトリの品質とはほとんど関係ない。(求職者をニワトリに例えてるのでなく、こういう思考のないルーティンな開始は意味ないということ)

こういう質問がアイスブレイクや観察上のリファレンスポイントを探る以上の意味を持たないんじゃないかと昔から思っていたが、最近は特にこういう質問をしなくなっている。なぜかというと、その人材の専門性やprofessionalityが組織全体の生産性に大きな違いを与えるような業界にいるためだ。そういう場合、こちらがよっぽど求職者にとって誰でもうなづけるくらいの、説明の必要のない、魅力のある職場でない限りは、(個社数比でいえばそんなケースほとんどないだろう)求職者と求人者は対等なのだ。

だからこそ、求人者はhumbleでなければならない。正解はこちら側には残念ながらないのである。くどいようだが、20世紀の生産のように生産設備に生産力の基盤があり、労働力はその支援者であった場合とは話が違う、求める基本的な資質が違う、働き方の傾向性も違う。21世紀の知的生産の時代において、生産力の基盤がスタッフに大きく依存する場合には、正解はスタッフ側にある。要するに採用にだってAgile開発の方法論が必要なのだ。なのにこの領域はえらく遅れている。(その理由の説明にはそれぞれの雇用現場のポリティカルな事象を抽象化して、なになりこれをある程度理路整然と語ることができないといけなんだけど、これは自分の能力を超えているのでしない。)

もう1つ昔の同僚たちと一緒に採用活動をしていて観察できたことがある。それは、多くの求人者は、この人はいいなと思える求職者に対して決定的なことは言わないが「だんだんフランクにやさしくなっていく。」という事象だ。

中途採用を経験された方の多くが、求人者の採用プロセスで見せる表情がだんだんフランクにより詳細な事業の説明などをはじめ、期待することを再度確認し、、、という感じで変わっていくのを感じたことがあるはずだ。「これは期待してもよいかな?」と自分で思える瞬間がある。別にこのような瞬間を求職者が感じるを否定しているのではない、それは職探しに真摯だということの裏返しにすぎない。問題は求人者の態度が変わってしまうことだ。それは最初の出会いでの、求職者に対してのトーンマナー・コンテンツ・期待値のセッティングが間違っているからだ。

わたしはこれを「窓際の令嬢シンドローム」と勝手に呼んでいる。

ここで言いたいのは、特に即時のインタラクションのある採用面談(もっと言えば、採用情報の掲示が始まった時点からという方がいいんだけど)は単なる採用面談でなく、正確に言うと採用面談はすでにオンボーディングプロセスの一部なのである。外部の知らない人と探り探り話をしてだんだん仲良しになっていく、という情緒的なやり方でなくて、こちらから自社の魅力を伝え、ポジションに対する期待値とその成果の測定方法について伝え、企業の文化や配属組織の構成について伝え、という風に、求職者の不安感を払しょくする必要がある。なぜならこちらは令嬢のように階下にたくさんの求婚者がいる存在でなく、どんどん外に発露して、こちらの意図を伝えて、適切な仲間を見つけるべき存在なのだ。そして採用面談とは求人者と(求人者は気軽に申し込んできているかもしれないが、)お互いの期待値をすり合わせるという活動なのである。そのうちでお互いがマッチした同士が事実上のオンボーディングに進んでいくだけのことである。すべての求人者をリスペクトして、彼らが時間を割いてくれることに感謝しなくてはならない。(こういう対応が、実務で忙しすぎる採用担当者に完璧にできるだろうか。できない。なので、リクルーターエージェントには正しいふるい分けの能力がますます求められるだろう。)

そして雇用するというのは責任を伴う。この認識なしに雇用することで結局組織を壊していくきっかけを作っていく。雇用するということは求人者のキャリアにとって、転職しない方がいいのか、他社に行った方がいいのか、自社に来た方がよいのか という判断をして、自社に来た方がいいと考えるという意思表明である。そんなきれいごとを・・・と思うだろうが、これが正しい雇用者の態度だろうと考えている。大まかな自社でのキャリアを思い描き、最後に自社を卒業するところまで想像できていた雇用はたいてい正しい雇用になっているような気がする。最初と最後を定めるという意味で採用は求人者のキャリアプランにプロジェクト管理の観点ですこし参加するということでもある。

まだ自分自身もできてないが自戒を込めて・・・


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