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○日本語教育・日本語教育学評論

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日本語教育と日本語教育学などで折々に感じたことを発信しています。
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2022年6月の記事一覧

みんな、ThresholdやWaystageを知らないor忘れている — そして、みんな話題についての言語技量も知らないor忘れている

 CEFRを旗印とする?現在のCouncil of Europeによる外国語教育改革の運動は、1970年代から始まっています。当初はユニット・クレジットシステムの開発がめざされました。その際に、ガイドラインとなったのが、vanEk and AlexanderのThreshold levelとWaystageです。そして、Threshold levelとWaystageは、2020年のCEFR Companion volumeでも、ちゃんと!?言及されています。  そして、この

Can-doが忘れていること

 プログラム評価の世界では、ゴールに至るためのロジックモデルを作ることが大切だと言われています。  カリキュラム開発においては、「まずゴールを設定して、そのゴールから逆に戻っていく形で一歩ずつサブゴールを明らかにして、そういう作業をした上で、スタートからゴールに至る経路を設定するのがよい」としばしば言われます。これを、カリキュラム開発におけるロジックモデルと言う場合もあります。  「在野」の?日本語教育では、ロジックモデルの以前にゴール orientationさえありませ

言語教育(日本語教育)を実践するときにまず認識しておくべきこと

 「まず認識しておくべきこと」の第2弾として、言語教育(日本語教育)を「実践するときに」まず認識しておくべきことについて、やはり箇条書きで、書いてみたいと思います。*第1弾は、https://note.com/koichinishi/n/nff666cfd8b87。 1.日本語の授業の風景  日本語の授業を見ることがあります。そこで広く見られる風景は、2つです。1つは、話すことを促された学習者が、伝えたいことを日本語にすることができないで苦労している姿です。そして、いま1つ

文化庁の日本語教育の参照枠と標準的なカリキュラム案を再考する② —「実際的な生活活動の領域」と「人とつながる活動の領域」という2領域を

サマリー Ⅰ.「生活」の中に「実際的な生活活動の領域」と「人とつながる活動の領域」という2領域を設定する。 Ⅱ.カリキュラムとしては「人とつながる活動」が基礎となり、それに徐々に「実際的な生活活動」を入れていく。  昨日の発信の続きです。今回は、昨日の提案を新たなカリキュラムの指針としてまとめると!という話です。 1.「実際的な生活活動の領域」と「人とつながる活動の領域」という2領域  従来のカリキュラム案では「生活のために必要な生活上の行為」のみが採り上げられています。

文化庁の日本語教育の参照枠と標準的なカリキュラム案を再考する① — 「生活」の中に「人と交わってお互いのことを話し人生を分かち合うこと」が入っていない!

 文化庁は、日本語教育の参照枠と標準的なカリキュラム案の路線で、いよいよ教育モデルの策定を進めようとしています。しかし、これまでの参照枠でもカリキュラム案でも、そこで言われている「生活」は実際的な必要を満たす生活上の行為等のみに限定されており、「生活」の中に「人と交わってお互いのことを話し人生を分かち合うこと」が含まれていません。つまり、生活上で対応しなければならない実用の日本語ばかりが注目されて、人と交わってお互いに自分のことを話して人生を分かち合いながら生きていく交友の日

言語教育(日本語教育)を企画するときにまず認識しておくべきこと

 標記のこと、箇条書きで書いてみたいと思います。 1.学習者の第一言語(あるいはすでに習熟している言語)と目標言語の距離  2つの言語を考えた場合に、「兄弟言語」(や「親戚言語」)か、「他人言語」かをまず認識しなければなりません。ヨーロッパの諸言語は、端的に「兄弟言語」か「親戚言語」です。Language distanceの研究では、ヨーロッパ言語間ではざっくり言って、類似しているものも含めて語彙が70%重なっているそうです。  ヨーロッパ言語話者だけでなく、アジアやアフリ

オンライン授業と比べた場合の対面授業の日本語習得的な有利さ ─ メルロ=ポンティの身体論的な分析

 きのうは、対面授業の初日でした。オンライン授業という「牢獄」から解放されたわたしは、何とも自由自在&伸び伸びと授業を実践しました。ちなみに言うと、わたしの授業のモットーは「言語習得的に豊かで豊穣な授業」です。90分の授業を受けただけでも、学生の日本語技量が豊穣化されるような授業です。文型・文法について「勘案」しつつ、そして、語彙の制約も「勘案」しつつ、です。 *昨日の授業は、「好きなもの・好きなこと」(NEJのユニット3)の再練習(←「復習」という言葉はどうも好きでない!