第8回「桑田佳祐とクレイジーキャッツ」
2023年6月25日でデビュー45周年を迎えた国民的人気バンドサザンオールスターズの桑田佳祐さんは、最初のテレビ体験が「ザ・ヒットパレード」(フジテレビ系で放送されたポピュラー音楽番組)、「シャボン玉ホリデー」(日本テレビ系で放送された、ザ・ピーナッツとクレイジーキャッツがレギュラーの音楽バラエティ番組)だった、とテレビで話されたことがあります。
1982年1月に発売された「チャコの海岸物語」の歌詞の中で、「心から好きだよミーコ抱きしめたい」「心から好きだよピーナッツ抱きしめたい」と歌われていますが、ミーコは歌唱力とパンチのきいた歌声で洋楽をカバーした和製ポップスを歌った弘田三枝子さん、ピーナッツは日本を代表する女性デュオのザ・ピーナッツであることは容易に想像できます。サザンの楽曲に’60年代の和製ポップスやコミカルなテイストがしばしば感じられるのは、桑田さんの子供の頃のテレビ体験が大きく影響していると思われます。
2008年、アサヒ飲料の微糖缶コーヒー「ワンダ アフターショット」のCMで、桑田さんと植木等さんの共演が遂に実現しました。桑田さんがリスペクトする天国の偉人たちと共演するというコンセプトで、第一弾が黒澤明監督、第二弾が植木さんでした。CMは、昼下がりのデパートの屋上という設定。食後にベンチでくつろぐ桑田さん、缶コーヒーのフタを開けると、中から元気よく登場するのが植木さん。あっけにとられる桑田さんを気にもせず、「よーし、一丁いくか!」のかけ声とともに陽気に走り出す。勢いをもらった桑田さんもつられて走り、一緒に踊り出すシーンが印象に残っています。ちなみにこのCMの第三弾はジャイアント馬場さんでした。
この年、2008年12月2日、桑田さんは、パシフィコ横浜国立大ホールで「昭和八十三年度!
ひとり紅白歌合戦」を開催。ハナ肇とクレイジーキャッツ🆚ザ・ピーナッツというコーナーで、かっての植木さんを彷彿させる股引きに腹巻き姿で登場し、「スーダラ節」と「ハイそれまでョ」を歌い上げました。
桑田さんは、さらに2019年のNHK総合テレビ「桑田佳祐 大衆音楽史"ひとり紅白歌合戦"〜昭和・平成、そして新たなる時代へ〜」で、音楽とコメディを融合したスタイルで大衆の支持を集めたクレイジーキャッツの魅力に触れ、「ライブで思わずふざけてしまって、それがウケちゃったり、ウケてると思うと、またやりたくなったりする」とコメントしています。
2021年10月、桑田さんは週刊文春に連載していたコラムをベースに、文藝春秋から「ポップス歌手の耐えられない軽さ」を刊行しました。文春連載の最後の回のテーマが「アタシが選ぶ日本の三大名曲(ポップス)」。そこでトップに紹介しているのが、植木等さんの「ハイそれまでョ」。
桑田さんの推しポイントを抜粋して紹介します。
まず、曲の出だしは、トロけるようなムード歌謡の世界。「あ〜なた〜だ〜けが〜🎵」。
このAメロ部分だけでもすでに「名曲」の趣き十分である。思わぬ歌い出しに出鼻を挫かれ、その魅惑の低音プォイスに唖然としていると、その刹那…ほら来た‼︎、期待を絶対に裏切らない「日本一の無責任男」‼︎いや、稀代のエンターテイナーの真骨頂だ‼︎
「お願い〜、お〜願い〜、捨てないで〜♪」。そんな厳かなムードをいきなりブレイクしたと思ったら…、「てなコト言われてソノ気になって〜♪」と、来たもんだ‼︎一転、激しい8ビートのツイスト・リズムへと急展開‼︎
「三日とあけずにキャバレーへ🎵カネのなる木があるじゃなし♪」。コメディタッチとは言え、悲哀を含んだシニカルな歌詞を、八分音符で連打して、怒涛の如くシャウトする植木等‼︎
「貢いだあげくがハイそれまでョ〜♪」とおいでになる。植木さん、虚無感に満ちたアナーキーなサゲを放つ。その部分、歌の音階(メロディ)は「Blues」である事この上なし‼︎
そして突然、管楽器による不協和音が炸裂。「ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって、このヤロー‼︎」。己の女房に対してか、世の中にむけてか…慟哭する‼︎
ところがだ。やっぱり「世の男たち」は哀れで情けない‼︎「泣けて〜く〜る〜」とフェルマータしながら、楽団は譜面上には無い音を各人が勝手に吹き鳴らす…。カオスとシュール…。
こんなに色んな要素が詰まった曲を、よくぞ歌いきる植木さん‼︎芸達者どころか、たった一人で壮大なミュージカルを演じているようなものである。実はアタシも、かってステージでこの曲を歌わせてもらったことがあるのだが…、かなり四苦八苦したことを覚えている。
「ハイそれまでョ」の魅力を、これほど音楽家の視点から明快に解説した記述は見たことありません。クレイジーファンとしては、桑田さんに大感謝です。
#桑田佳祐 #サザンオールスターズ#植木等#クレイジーキャッツ#ハイそれまでョ
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