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第22回「クレイジーのラプソディ・イン・ブルー」

今年2024年は、アメリカの作曲家ジョージ・ガーシュウィンがピアノ独奏と管弦楽のために作曲した「ラプソディ・イン・ブルー」がニューヨークで初演されて100周年にあたります。

この曲は、ジャズとクラシックが見事に融合した作品として、今も高い人気を誇っていますが、私は、この曲を聴くと、1967年12月28日に放映された、「植木等ショー24回"われもし指揮者なりせば"」(TBS系)でのクレイジーキャッツの演奏を思い出します。
植木等ショー」(TBS系毎週木曜日21時〜21時半)は、1967年7月〜1968年1月(第1期)、1968年7月〜12月(第2期)の全51回放送された人気番組で、毎回豪華なゲストを迎え、エンターテイナー植木等さんの魅力が爆発しました。大人向けのショーですが、子供も親と一緒に楽しく見ていたという、今では考えられない番組でした。
当時のテレビ局には勢いがあり、有能な人材も多く、毎回、練り上げられた構成で、木曜日の夜が楽しみでしたが、特に「われもし指揮者なりせば」の回は、ゲストに指揮者の石丸寛さん東京交響楽団クレイジーキャッツのメンバーが出演。「ラプソディ・イン・ブルー」の楽曲をベースに、クレイジーが最も本領を発揮する楽器を使った音楽ギャグを次々と繰り広げていくという構成で、ミュージシャンとしてのクレイジーキャッツの力量が遺憾なく発揮されています。
植木等ショーの全貌については、娯楽映画研究家・音楽プロデューサーの佐藤利明さん編著による「植木等ショー!クレージーTV大全」(洋泉社)でかなり詳しく解説されています。

この回は、目黒公会堂で収録。冒頭、植木さんがタイトルコールをしても音楽が始まらないので、仕方なくギターの弾き語りで「植木等ショー」のテーマソングを歌い始めると、幕が開いて、東京交響楽団の演奏が始まります。

燕尾服姿の植木さんが石丸寛さん(違いがわかる男のCMコピーで知られた)に指揮を教えてもらい、ベートーベンの「交響曲第五番 運命」を指揮し、調子に乗ります。

気を良くした植木さんが「ラプソディ・イン・ブルー」の指揮を所望すると、クレイジーキャッツの面々が登場して演奏に参加。

安田伸さんのクラリネットがいつの間にかチンドン屋の音楽になったり、

犬塚弘さんが鍋のフタをシンバルに見立て、猿の人形の動きをしたり、「ラプソディ・イン・ブルー」がいつの間にか、マンボの曲「セレソローサ」に変わるなど、クレイジーならではの
音楽ギャグが炸裂します。


そのうち、連弾をしていた桜井センリさん石橋エータローさんが、お互いに張り合って争いになり、ピアノを破壊、ステテコ腹巻き姿の植木さんが工事用の爆弾を持って登場し、大爆破させる、という予想外の展開になります。


最後は、正装したクレイジーのメンバー6人で指揮をしながら、植木さんがエレガントに番組のエンディング曲「星に願いを」(作詞植木等・藤田敏雄、作曲萩原哲晶)を歌いあげます。

この回の「植木等ショー」のディレクター鴨下信一さんは、音楽番組を担当した後、一見幸せそうな中流家庭の崩壊を描いた「岸辺のアルバム」や落ちこぼれの若者群像劇「ふぞろいの林檎たち」などテレビ史に残るドラマを演出された方ですが、前述の「植木等ショー!クレージーTV大全」の中で、佐藤利明さんが鴨下さんにインタビューされた部分を一部抜粋で紹介します。
(佐藤)クラシックとクレイジーの組み合わせは、ハイブロウですね。
(鴨下)これはやっぱり、華々しかった。出来栄えも実にいい。変な話、外国に出しても恥ずかしくないくらいにいいと思います。全編ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」で通したということも大きい。最後のオチも利いてるしね。谷啓さんって本当に才人で、ピアノをぶっ壊した後にどうしようか?何か考えようとなったときに、最後にオモチャのピアノを出してテーマを弾くという、とても洒落たエンディングを考えてくれました。


(佐藤)谷啓さんはギャグのアイデアも豊富ですね。
(鴨下)この時、谷さんはたった1日で、ギャグを入れた譜面を作ってきたんだ。最初の発想は、"クレイジーで楽器ギャグをやろう"。ピアニストのリベラーチェ(「世界が恋したピアニスト」の異名をとったアメリカのピアニスト)が、ピアノをぶっ壊すショーを見たんです。最後に鍵盤がジャバラに全部抜けて"ピアノが歯槽膿漏みたいになってる!"って思ったのを、覚えていたんです。
(佐藤)鴨下さんの「ピアノ1台をバラバラにするのをやりたい」がすべての始まりだったんですね。

「植木等ショー"われもし指揮者なりせば"」は
DVD「植木等スーダラBOX」「CRAZY CATS MEMORIAL」の中に収録されています。

才人たちが趣向を凝らして作り上げた「植木等ショー」、51作全ての映像が見られないのが残念ですが、ディック・ミネさん、榎本健一さん、鶴田浩二さん、越路吹雪さん、森光子さん、加山雄三さん、坂本九さん、ザ・ピーナッツ、吉永小百合さん、浅丘ルリ子さん、ザ・スパイダース、ザ・ドリフターズなど数々の豪華なゲストが出演した番組の魅力については、改めてさらに紹介したいと思います。
#ガーシュイン #ラプソディ・イン・ブルー#東京交響楽団#石丸寛#クレイジーキャッツ#植木等#植木等ショー#谷啓#鴨下信一#佐藤利明

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