第28回「楽しかった東宝映画2本立て 後編」
東宝クレイジー映画後半の15作品と併映作品をご紹介します。当時は、併映作品との組み合わせが映画を観る楽しみの一つでもありました。
◯1966年10月29日封切
「クレージー大作戦」(監督古澤憲吾)「喜劇・駅前競馬」(監督佐伯幸三)
植木等さんをはじめクレイジーキャッツのメンバー七人が犯罪のプロに扮し、チームワークでギャングから現金10億円を奪う大作戦を遂行するというアクション・コメディー。前年封切られてヒットしたイタリア映画「黄金の七人」を彷彿とさせる内容です。
◯1967年1月14日封切
「クレージーだよ天下無敵」(監督坪島孝)「喜劇・駅前満貫」(監督佐伯幸三)
植木等さんと谷啓さんが先祖代々のライバルという設定でガッブリ四つに組んで丁々発止のやりとりを繰り広げるコメディー。アグレッシブな植木さんと神経質でちょっと気弱なタイプの谷さんのコントラストが秀逸です。
◯1967年4月29日封切
「クレージー黄金作戦」(監督坪島孝)
この作品についてはnoteの連載第21回「GWはマフィアも黙った超大作"クレージー黄金作戦"を」で詳しく解説していますが、東宝創立35周年記念作品として、製作費1億8千万円、上演時間2時間37分という当時としては破格のスケールで、1本立て興行となりました。日本映画として初のアメリカ本土ロケ、ラスベガス大通りでのダンスシーンは、その後オールナイトなどで上映される時も歓声があがるほどインパクトのある名シーンとなっています。クレイジー映画の頂点を極めた作品と言っても過言ではありません。また是非、大スクリーンで鑑賞したいと思っています。
◯1967年10月28日封切
「クレージーの怪盗ジバコ」(監督坪島孝)「ドリフターズですよ!前進前進また前進」(監督和田嘉訓)
北杜夫さん原作のキャラクターを基に自由な発想で作った作品。植木等さんが変装の名人ジバコに扮し、国際的な大窃盗団が日本の古美術品を海外に持ち出すのを防ぐというアクション・コメディー。クレイジーのメンバーそれぞれにジバコが扮装して窮地を切り抜けるという設定が面白い。松竹映画でもシリーズ作品を持つことになる渡辺プロダクションの後輩、ザ・ドリフターズの東宝初主演作品が併映に。ちなみに、ザ・ドリフターズのメンバーの芸名、いかりや長介、加藤茶、高木ブー、仲本工事、荒井注は全てハナ肇さんが命名しました。
◯1967年12月31日封切
「日本一の男の中の男」(監督古澤憲吾)「ゴー!ゴー!若大将」(監督岩内克己)
女性活躍が注目を集める中、存在感が弱くなってきた男性にカツを入れ、自信を取り戻させるような作品。アメリカでビジネスを学んだバリバリの女性ヒロインに日活から浅丘ルリ子さんを招き、有言責任男植木さんと共演、正月映画らしい華やかな作品になりました。「ゴー!ゴー!若大将」は加山雄三さんの若大将シリーズ第11作で京南大学陸上競技部の若大将こと田沼雄一(加山雄三)が自動車の全日本ラリーで活躍するストーリー。当時の東宝映画の二枚看板植木さんと加山さんの主演映画2本立ては初めて。
◯1968年4月27日封切
「クレージーメキシコ大作戦」(監督坪島孝)
前年の「クレージー黄金作戦」に続き、ゴールデンウイークに1本立て公開された超大作。同年に開催されるメキシコ・オリンピックを当て込み、サンフランシスコを経てメキシコロケを敢行。大酒飲み(植木等)、銀行員(谷啓)、やくざの組員(ハナ肇)がそれぞれの事情でトラブルに巻き込まれメキシコへ逃亡。オルメカの秘宝を巡ってギャング団との争いに巻き込まれるというアクション・コメディーです。
◯1968年11月2日封切
「日本一の裏切り男」(監督須川栄三)「コント55号 世紀の大弱点」(監督和田嘉訓)
監督が社会派の須川栄三さんに変わり、「日本一シリーズ」が、これまでの会社を舞台にした有言実行サラリーマンの物語から大きく変貌。特攻隊生き残りの主人公(植木等)が戦後のドサクサの中をバイタリティーでノシ上がっていくストーリー。戦時・戦後と権力に裏切られ続けた男が最後に裏切りのお返しをするという社会風刺コメディーです。併映は、1968年4月に放送を開始したフジテレビ「お昼のゴールデンショー」に司会の前田武彦さんと共にレギュラー出演し人気の出始めていたコント55号(萩本欽一さん、坂上二郎さん)の初主演映画です。
◯1969年1月1日封切
「クレージーのぶちゃむくれ大発見」(監督古澤憲吾)「フレッシュマン若大将」(監督福田純)
コンピューター時代、高級クラブホステス役のヒロイン(期待の新星、中山麻理)は殺されますが、人工頭脳でアンドロイドとして蘇らせ、クレイジーのメンバーが政界の黒幕を暴いていくというストーリー。クレイジー映画は時代を先取りするところが魅力でもあります。併映は若大将シリーズ第13作ですが、大学を卒業した社会人編の第1作でもあり、この作品から若大将のマドンナが星由里子さんから酒井和歌子さんに変わります。
◯1969年4月27日封切
「クレージーの大爆発」(監督古澤憲吾)「ドリフターズですよ!全員突撃」(監督和田嘉訓)
3億円事件をネタに織り込みながら、銀行の地下金庫に眠る3000億円の金塊を奪うストーリーで、これまでの作品でアメリカやメキシコに活躍の場を広げたクレイジーの面々、狭い地球には住み飽きたのか、今作ではついに月まで出かけていきます。そう言えば、1979年の「007/ムーンレイカー」でもジェームズ・ボンドが宇宙へと飛びだしていました。クレイジー映画の方が宇宙へは10年早く出かけています。
◯1969年11月1日封切
「日本一の断絶男」(監督須川栄三)「水戸黄門漫遊記」(監督千葉泰樹)
万博、昭和元禄に浮かれる日本に突如現れた社会や会社とは全く断絶したドライな無責任男(植木等)が主人公のブラックコメディー。
ヒロインは緑魔子さんで、主人公がヤクザの抗争に巻き込まれるなどヤクザ映画のパロディも挿入されています。併映作品は、森繁久弥さんが水戸黄門、宝田明さんが助さん、高島忠夫さんが格さんを演じ、三木のり平さんやコント55号も出演しています。
◯1970年1月15日封切
「クレージーの殴り込み清水港」(監督坪島孝)「社長学ABC」(監督松林宗恵)
1966年の正月映画として公開された「無責任清水港」(監督坪島孝)の続編。追分の三五郎(植木等)と森の石松(谷啓)が清水次郎長(ハナ肇)一家と共に、悪代官と悪徳やくざを相手に大活躍するストーリー。「用心棒」や「座頭市」のパロディも登場、星由里子さんや内藤洋子さんが共演し、華を添えます。併映は社長シリーズの第32作。台湾ロケの作品で、森繁久弥さんが食品会社の会長に、小林桂樹さんが森繁さんの後を継ぎ、社長に就任します。
◯1970年6月13日封切
「日本一のヤクザ男」(監督古澤憲吾)「喜劇・負けてたまるか」(監督坪島孝)
1962年「ニッポン無責任時代」を監督、植木等さんの無責任男像を作り、有言実行のサラリーマンが主人公の日本一シリーズをヒットさせた古澤憲吾監督が同シリーズに復帰。当時大人気の任侠映画のパロディで、植木等さん扮する主人公(日本一郎)が、対立するやくざの2つの組を口八丁手八丁で手玉にとって活躍します。
植木さんの対決相手のやくざに藤田まことさん、ヒロインはクレイジー映画初出演の司葉子さんです。古澤監督によるクレイジー映画最終作となりました。併映は野坂昭如さんの小説「水虫魂」が原作で、戦後のマスコミ界でのし上がっていく男の話。何をやっても上手くいかず、受け身のタイプの男が、マスコミ界の寵児となっていく姿を谷啓さんがキャラクターを生かして演じています。植木等さんと谷啓さんの主演作品2本立てというまさにクレイジーな組み合わせです。
◯1970年12月31日封切
「日本一のワルノリ男」(監督坪島孝)「喜劇・右むけェ左!」(監督前田陽一)
数々のクレイジー映画を監督した坪島孝さんが初めて「日本一シリーズ」を担当。植木等さんとザ・ドリフターズの人気者加藤茶さんとの新コンビの作品です。行方不明となった教え子(加藤茶)を探して、東京に出てきたズーズー弁の田舎の教師(植木等)が、東京で大会社に就職した後、植木さん本来のカッコイイサラリーマンになっていく変身ぶりが面白い。併映は、謎の埋蔵金をめぐる日本人のエコノミックアニマルぶりを描いた作品で、堺正章さん、犬塚弘さん、小松政夫さん、いかりや長介さんなどが出演しています。
◯1971年4月29日封切
「だまされて貰います」(監督坪島孝)「喜劇・昨日の敵は今日も敵」(監督前田陽一)
ゴールデンウイーク作品にふさわしく、日本、ハワイ、ニューヨーク、ラスベガスを舞台に、日本一のペテン師(植木等)と田舎の農協職員(加藤茶)が大騒動を繰り広げます。植木等さんと谷啓さんがニューヨークで歌う挿入歌「カモン!ニューヨーク」は心浮き立つナンバーです。併映は、対立する大学の応援部と軽音学部の学生達がバイトで訪れた箱根の旅館でクーデター騒動に巻き込まれる社会風刺のドタバタ喜劇。堺正章さんやなべおさみさんが出演しています。
◯1971年12月31日封切
「日本一のショック男」(監督坪島孝)「起きて転んでまた起きて」(監督前田陽一)
日本一シリーズ第10作。10年続いた東宝クレイジー映画の最終作になります。過疎化が進む田舎の巡査(植木等)が、初恋の女性に生き写しの女性の自殺を防いだことから、彼女の恋の手助けのため上京、公害問題に苦しむ会社に就職し、公害問題の解決にも貢献するという当時の世相を反映したストーリーになっています。併映は、それぞれ家業を継ぐことになった大学の同級生2人が珍商売や恋人争奪戦を繰り広げるコメディー。堺正章さんやなべおさみさんが出演しています。
日本の高度経済成長の時代、エンタテインメントの世界で夢と希望、明るさを提供してきた東宝クレイジー映画。1970年代に入ると高度成長にも翳りが出始め、公害、ベトナム戦争の激化、大学紛争、オイルショックなど暗い話題が多く、映画産業自体もテレビに押されて急速に斜陽化が進む中、ついに終焉を迎えることになりました。今、改めて見直してみても、決して古くなく、「人情の機微を描き、笑ってホロリとさせる」日本人的な喜劇ではなく、「社会風刺を入れつつ、颯爽と痛快に世の中を笑い飛ばして皆んなを明るく元気にさせる」という新しいタイプの喜劇映画であり、それが大人から子供まで多くの方の共感を呼んだのだと思います。
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